Coral Capitalは8月31日、3号ファンドを140億円で組成完了したことを発表しました。同日開催されたオンライン記者会見で創業パートナーCEOのジェームズ・ライニーは、「3号ファンドを通じて日本からデカコーンを創出したい」と意気込みを語りました。この記事では、会見でジェームズが語った内容を要約してお伝えします。
日本VC業界の村社会に、新しい風を吹き込みたかった
私と共同創業者の澤山が、Coral Capitalの前身となる500 Startups Japanを立ち上げたのは2015年でした。その当時、スタートアップに投資していたのは、事業会社か金融機関のベンチャーキャピタルぐらいで、独立系のベンチャーキャピタルは少なかったと思います。そこで、「日本にシリコンバレーのベストプラクティスを持ってくれば大きなことができる」と考え、2016年に1号ファンドを組成しました。
その頃に私が考えていたのは「日本ベンチャーキャピタル業界の村社会に、グローバルな新しい風を吹き込む」ということです。
シリコンバレーではベンチャーキャピタルが資金調達の知見などをオープンに発信していましたが、そのような情報は日本で探してもほとんど出てこない。ベンチャーキャピタル業界はブラックボックスで、村社会のようでした。まずはこれを変えるために、小さい市場でシェアを奪い合うよりも、市場を大きくすることを考えたのです。
そして私たちは、J-KISSやSPVのようなシリコンバレーのコンセプトをローカライズしたり、Coral Insightsでシリコンバレーのベストプラクティスを発信したりしてきました。
日本のスタートアップ市場のエコシステムは、今では大きくなりました。多くの起業家やスタートアップの従業員、ベンチャーキャピタルが自らの経験や知見をオープンに発信するようになったことで、スタートアップ業界のレベルが上がりました。ユニコーンや大型調達も増えていて、本当にシリコンバレーのような市場になってきたと感じています。
日本のスタートアップ投資を年間1兆円に
国内スタートアップの資金調達額は年間で5,000億円近くになりましたが、GDPを考えるとまだまだ成長の余地が大きいはずです。
例えば韓国のGDPは180兆円と日本の3分の1程度でありながら、スタートアップには4,000億円が投資されています。GDPが37兆円のシンガポールですら3,800億円ですし、GDPが310兆円のイギリスには1.9兆円も集まっています。
私たちが目指しているのは、日本のスタートアップ市場を年間1兆円まで成長させることです。それを達成するために、Coral Capitalは3本の矢として、「Coral Insights」「Talent & Community」「Capital」の分野に力を入れていきます。
1つ目のCoral Insightsはコンテンツ発信です。これまでも力を入れていましたが、情報発信量を倍増するために、元TechCrunch Japanの増田覚をCoral Insights副編集長として採用しました。
なぜコンテンツ発信が重要かというと、ベンチャーキャピタルと起業家の間には、まだまだ情報のギャップがあるからです。この問題を解決するには、今まで以上に、業界でノウハウを共有し、知見を貯めていく必要があります。また、優れたスタートアップのストーリーを届けることは、より多くの優秀な人材をスタートアップエコシステムに呼び込むことにもつながります。
2つ目はTalent & Communityです。スタートアップには優秀な人をどんどん巻き込む必要があるので、今回新たにタレントマネージャーとして、元パーソルでエグゼクティブ・リクルーティングを担当していた白田陽平を採用しました。Coralでも、投資先の経営陣クラスの採用サポートを開始しました。
「優れた人材」を確保するためにも、コミュニティで横のつながりを作ることが大事だと考えています。コミュニティを通じて「スタートアップで働くのは楽しい」「世の中に大きなインパクトが与えられる」といったポジティブなメッセージが周囲に伝わることで、スタートアップで働くことが当たり前になると考えています。
3つ目はキャピタルです。市場規模を5,000億から1兆円にするためには、国内の資金だけでは足りず、海外から資金を引っ張ってくる必要性があります。そこで私たちは、Founders Fundを含む米国やアジア、ヨーロッパなどの海外投資家に協力を仰ぎました。今回の新しいファンドの資金の約3割は海外投資家からの出資によるものでした。
過去の話になりますが、シリーズBでSmartHRに投資するとき、社長の宮田(昇始)さんに「バリュエーションは自由に決めてください」と伝え、空白のタームシートを渡しました。なぜそうしたかというと、絶対にユニコーンになる確信を持っていたからです。後日、宮田さんは「空白のタームシートをもらったことで、数百億円のIPOで満足するのではなく、ユニコーンになることを決意した」と話していました。
何が言いたいかというと、日本からデカコーンが出てこない理由は「野心」にあると思っているということです。もちろん数百億円のイグジットは大成功ですが、世界ではユニコーンが珍しくなくなったことで、さらに上のデカコーンを目指すようになりました。日本も市場規模を考えると達成できるはずです。
繰り返しになりますが、これからは「Coral Insights」「Talent & Community」「Capital」にさらに力を入れていくことで、みなさんと一緒にスタートアップ市場を1兆円規模にまで持っていきたいと思います。