「老害にならないようにね」80歳エンジニア、スタートアップで働く毎日を語る

スマートロックを活用した法人向けの「Akerun入退室管理システム」をはじめとしたAkerunブランドのクラウド型IoTサービスを提供するフォトシンス(フォトシンス)ではたらく最年長エンジニア、ヒロカズさんはなんと今年で80歳。

もしかしたら日本最年長のスタートアップエンジニアかもしれません。

周りの同僚はもちろん、直属の上司である取締役も孫のように年が離れている。でも、「お互いに敬意を払えば信頼は生まれるもの」と深谷さんは話します。

楽しそうに日々働いている話をお聞きすると、きっと技術的な資産と同じくらい、人柄も大事なんだろうと感じます。前回のインタビュー記事に続き、熟練エンジニアの人生を追います。

今回は深谷さんとその上司、取締役の熊谷さんにも話を伺いました。

大手メーカーから、五反田の2LDKのオフィスへ

ーー長年勤めた会社を定年後、マレーシアで仕事を続けて10年あまり。そこから日本のスタートアップに参画したわけですね。

深谷さん:マレーシアから帰ってしばらく休んで、また何かやりたいなと探していたら、たまたま見かけたのが「シニアモード」というシニア専門の求人サイトでした。フォトシンスの創業間もない、2014年10月頃だったと思います、

実はこのサイト、立ち上げにフォトシンスの創業メンバーが関わっていたと後から知りました。

熊谷さん:実はフォトシンスの創業メンバーのうち3名はもともとガイアックスという会社に在籍していまして、そこで立ち上げた事業がシニアモードだったんです。技術やノウハウを持つシニア層と企業をマッチングするサービスです。

フォトシンスを創業してからも「自分たちがつくったサービスなので使ってみようか」と軽い気持ちでシニアモードに登録してみたら、いきなり応募がきたのが深谷さんでした。すごく驚きましたね。

シニアモードはそんなに有名なサービスじゃなかったのに、こんなすごい経歴の人がよく見つけてきてくれたな、と。

深谷さん:求人内容を見てみたら、すごく若い方が何か新しいことを始めようとして一生懸命頑張っていることを知りました。そうだとしたら私もいろいろと経験しているから、多少はお手伝いができるんじゃないかと思いました。

それですぐに応募しましたよ。そうしたら、返信をいただいて面接に行ったんです。当時は会社が五反田で、創業した当時の事務所はアパートの1室でした。2LDKくらいだったようです。

そこに創業メンバー6人がいて、熊谷さんもその1人でした。それで「私もプラス0.5でいいから入れてください」と話しました(笑)

熊谷さん:当時はエンジニアとデザイナーも入れて全部で8人くらいでした。深谷さんが入られたのは創業した2014年9月の、その月なので本当に創業初期からのメンバーなんです。

ーー深谷さんのように大企業におられた方が、70歳を過ぎてから、孫の世代が8人くらいいるスタートアップで働くって、ものすごいギャップですよね。

深谷さん:それが全然違和感を感じなかったんです。マレーシアで若い人に技術を教えていたのも、たぶんよかったのだと思います。毎日研修生たちと一緒に食事をしながら楽しんでいましたので。むしろ、フォトシンスの若いみなさんのほうがどうかな、という心配はありましたね。

また、中国での市場開拓でも、現地の若いエンジニアに技術指導をしたり、多くの中小企業を訪れたりしていましたので年齢差や会社の大きさにはこだわりはありませんでした。

プロダクト量産への不安、心強い味方に

ーー熊谷さんとしてはどうでしたか? 深谷さんを迎えて、経歴もものすごいですけれど、自分がその上司になったわけですよね。

熊谷さん:まずは本当に、その経歴にすごく驚きました。いわゆる生粋の日本のメーカーで長年技術を培ってこられて、いろんな製品開発を経験しています。だから回路設計技術者として支援していただけるというところがすごく心強かったです。

我々も、いまでこそプロダクトをいくつも出していますけれど、創業当時は「本当にこれを量産できるのか?」みたいな不安がありました。

毎週通っていただいて、いろいろと回路のことや当時のものづくりの話をしてもらったり、技術的な課題を一緒に考えて解決してもらったり、僕らは「心強い人に入っていただいたぞ!」みたいな感じで盛り上がっていました。

フォトシンス開発管掌取締役の熊谷悠哉さん

ーー深谷さんとしては、働いてみてどうでしたか?

深谷さん:社内の雰囲気がとても良く、自分に合っていて、働きやすい環境でした。何よりも、社員の皆さんが、後期高齢者の私にいつも敬意を払って接していただいています。このことは、長く仕事を続けさせて頂くうえで大きな励みになると思っています。

これもフォトシンスの社風でしょう。毎回の出社が楽しみなのです。私自身も年の差には関係なく社員の方々に対する敬意を払うことと感謝の念を忘れたことはありません。

お互いに敬意を払って接しないと厚い信頼感は生まれないです。これも、先生と生徒という関係って、年の差がものすごくあるわけで、そのギャップを何とか克服し信頼関係が築けたマレーシアでの経験につながっているのかなと思っています。

この経験を活かし同じ視点で考えて、もし自分にわかることがあれば、全力で協力させていただき、同じ年代のつもりで仕事をさせてもらえるのがフォトシンスでした。

若い方と接していろんなお話ができるというのは非常に刺激になります。若い気持ちでいられることにも繋がっていると思います。

ーー最近のニュースを見ていると、実績のある大人も、あまり上から目線でいうと、すぐに煙たがられるというか、「老害」だと言われてしまう世の中です。

深谷さん:そうなんですよね。老害じゃなくて、私はお互いに「老」を上手く使いこなすような工夫をすべきだと思うんです。その点、フォトシンスでは、熊谷さんをはじめ「老」を有効に活用していただいているように思います。

熊谷さん:深谷さんには最初は週1のアドバイザーとして、相談したいことにアドバイスをしていただくような働き方をお願いしていたんですが、だんだんとエンジニアとして入っていただくようになりました。

昨年からは週3日くらいで来ていただいて、実際にチームメンバーとして開発業務をやっていただいてます。そういう意味では、どんどん「先生」から「メンバー」になってもらってるんです。

深谷さん:それが嬉しいですね。だんだん若返っていく気がします。

完全に違和感なく馴染んでる深谷さん

ーー実際にフォトシンスで仕事をする日の1日のスケジュールを教えていただけますか。

深谷さん:朝10時半に出社したら、担当エンジニアの方を交えで30分~1時間程度のミーティングを行います。前日までに私のほうで検討または完了した結果を説明し、その内容に基づいてディスカッションします。

その後は必要な設計業務に取り掛かります。主に会社で片付ける仕事と自宅でできる仕事を切り分け、出社時は前者の仕事に重点を置き、4時間程度の作業をします。主に試験や実験によるデータ収集ですね。

収集したデータは自宅に持ち帰り、レポートとしてまとめます。作業内容と技術レポートをまとめて、当日か、遅くとも翌日には担当者に渡し、賞味期限切れにならないようにしています。

また、出社とリモートワークを業務の状況に応じ選択できるのも、高齢者の体調維持や通勤リスク低減につながり、気力・体力面の弱点を補うのに大いに役に立っています。

フォトシンスは、熊谷さんのご理解もあり、稼働時間は便宜上の扱いで、技術成果に対して適正な評価をして頂いていると思います。これも日々の業務に対するモチベーションアップにつながります。自分自身も時間そのものにはこだわらずに、成果と期待レベルの整合に気を配りながら業務にあたるようにしています。

目の前のことを一生懸命に、専門性を持ちながら裾野を広げる

ーー深谷さんのように常に若い人に必要とされる人生を歩みたいという人もいると思います。そのためにいま、こういう心持ちで働くといいよ、といったアドバイスをいただけますか。

深谷さん:そんな生意気なことを言える立場でもないんですけれど、自分は「とにかく目の前のものを一生懸命やる」。それだけでした。そのためには、先ず健康であることです。それから、前に進もうとする意欲を持ち続けることだと思います。

目の前のものだけに集中すると時代の変化に乗り遅れるので、次のステップを考えながら目の前のことに取り組む。それを積み重ねてきたと思います。

たしかに、専門性を高めるというのは非常に大事なんです。私の場合はICの回路設計でした。そこを中心に裾野を広げていくよう心掛けていました。

振り返ってみると、そのとき目の前にあったものを一生懸命やりながら、次のステップに向けて、より広い裾野で専門性をどういうふうに繋げていくのかーー。そういうことを考えながら仕事をしてきたことが今に繋がっているのかな、と感じます。

80歳のエンジニアには夢がある

熊谷さん:僕は80歳のエンジニアって、夢があると思います。たとえばエンジニアには30代定年説みたいなものもあったりしました。「エンジニアとして自分がどこまでやれるんだろう?」というのは、エンジニアであれば、誰しもが一度は思うことだと思います。

でもうちのエンジニアの中には、深谷さんに勝てる人は誰もいないんです。それって「まだまだやれるぞ」という夢をみんなに与えくれているわけです。

そんな存在でありながら、我々のようなスタートアップのマインドにもすごく共感していただいて、一緒にものづくりができるということはとても幸せなことですね。

ーーちなみに深谷さん、仮想通貨にも興味をお持ちで取引しているとか。

深谷さん:先見の明がなかったから大昔に失敗しちゃったんですけど。仮想通貨が登場したのってもう10年くらい前ですよね。

その当時、アメリカのホームページを見ていたら、ホームページにアクセスするとポイントをもらえるというサイトがあって。1回アクセスすると0.1ドルかな、忘れましたけれど、そのくらいもらえるんです。

面白いから毎日アクセスしていました。そうしたら、何千ポイントか溜まったところで、ポイント制度が変更になり、ある仮想通貨に変わるということになったんです。

ドルでもらうか、他の仮想通貨でもらうか選べて、そのときのレートはこうですよ、という説明があるんですね。その仮想通貨とビットコインのレートが1:1でした。

3000ポイントくらいたまっていたから、試しに1:1でビットコインと変えようとしたんですけど。

ーーで、億万長者に?

深谷さん:交換しようと思っていろいろとやっていたら、交換する最低ポイントが決まっていました。それが3500か何かで、届かなかったんです。それで諦めちゃって、お金持ちにはなれませんでした。

頭の体操にFXなんかもやってみましたけれど、金儲けの素質がないので儲からないわけです。でも、いろいろなシステムに関連する技術を勉強するのも面白いですね。

ちなみにいまは2000円相当のビットコインを保有していますよ(笑)

(本記事はインタビュー記事の後編です。インタビュー前編はこちら→「スタートアップで活躍する80歳の第一線エンジニアーーそのチャレンジだらけの半生とは 」)

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