米国のトップティアVCの新規投資先をまとめて手短にご紹介する連載。今回はAndreessen Horowitz(a16z)の8月の投資先から、6社のスタートアップを紹介します。$2.2b(約2,400億円)の大型のクリプトファンド設立やNFT関連スタートアップへの継続投資が目を引く最近のa16zですが、いわゆるIT系の投資も数は多いです。
8月の注目の1社は2017年にロンドンで創設されたノーコードの「Stacker」です。
業務アプリに特化すると何が良いのか?
ノーコードが話題になり始めて2年ほど。Googleスプレッドシートからアプリを生成するAppSheetは2020年1月にGoogleに買収されましたし、汎用ノーコードプラットフォームのBubbleは2019年3月のシード調達時にプレマネーで$10m(約11億円)のバリュエーションだったものが、2021年7月のシリーズAでは$100m(約110億円)を調達。バリュエーションは$400m(約440億円)を超えるほど急成長しています。
最近は既存SaaSで業務フローをビジュアルに定義するようなものも広義の「ノーコード」と呼ばれていますが、アプリを生成するAppSheetやBubbleのような系譜に属する狭義の「ノーコード」として8月にa16zが新規出資したのが、2017年にロンドンで創設された「Stacker」です。
Stackerはスタートアップのアイデアを証明するためにMVPを作れる汎用のノーコードプラットフォームではなく、社内で使う業務アプリや、パートナー企業向けのアプリを作ることを意識した「B向けノーコード」です。
C向けアプリの多くと違い、B向けはクラウド上にデータを一定のルールや一貫性を持って表示・編集・ワークフローを定義するというパターンに集約されることが多い、というのがStackerのポイントです。こうした定型アプリはCreate(データ作成)、Retrieve(参照)、Update(更新)、Delete(削除)の頭文字を取ってCRUD(クラッドやクルードと発音)と呼ばれます。Stackerは、既存のGoogleスプレッドシートやAirtable、Salesforceと言ったデータソースを指定するだけで、半自動的にCRUDアプリが生成できるノーコードツールと言えます。これはRuby on RailsやLaravelといったWeb開発フレームワークがカバーしていた領域。Stackerを少し触ってみた印象では、ビジネスロジックや機能がさほど複雑でない業務アプリはStackerで十分に思えます。
Stackerにはシングルサインオンや操作権限の異なる管理者・閲覧者などのユーザーモデルが事前に定義されていて、最初から業務アプリに必要な機能から押さえに行っている点も興味深いところ。サイトに訪問者が来るとブラウザにチャットが開くIntercomや、決済のStripeにも対応しているほか、データソースとして本格的なデータベースのPostgreSQLも使えるようになっています。
Stackerの利用企業としてTEDが挙げられています。TED Fellowsと呼ばれるプログラムへの数千件の申し込みを20件に絞る過程をStackerアプリにしたことで、フローの一部に変更があっても開発者に依頼することなく、ビジネスサイドで変更が可能になったといいます。
APIエコノミーを支えるGraphQLスタートアップがユニコーンに
a16zの8月の新規投資先としては、Apollo Graphも目を引きます。シリーズDで$183.2m(約200億円)を調達。ポストマネーのバリュエーションで$1.13b(1,240億円)とユニコーンの仲間入りをしました。
GraphQLとはAPIの呼び出し・問い合わせに使うクエリ言語と、その実行環境です。Facebookが内部的に開発して利用していたものを2015年に公開。2018年以降はオープンな規格として標準化されています。ネットで最も成功したプロトコルであるHTTP上で、アプリやシステムモジュールが情報をやり取りするとき、従来はREST APIと呼ばれるシンプルなアプローチが好んで利用されていました。
ところがITシステムのバックエンドがマイクロサービスと呼ばれる機能ごとにバラバラに設計・維持する開発方針に移行しつつあることや、BaaSやFaaSの台頭などもあり、APIの利用が複雑化。その結果、シンプルすぎるRESTでは立ち行かなくなってきたところにGraphQLが登場し、これを採用する企業が増加しています。
Apollo Graphは、このGraphQL人気の波に乗ったスタートアップです。REST APIを含め、既存のAPI形式やデータベースなどを集約し、GraphQLを継続して開発するために必要な管理機能をサーバー側、クライアント側ライブラリで提供するほか開発ツールも提供しています。
このほか8月のa16zの新規投資先としては、以下のように法人カード、Drone、社員の報酬管理SaaSなどがあります。
Editorial Team / 編集部