Rosenblum氏は2014年にVisaを退職した後、創業2年目でメンバーが30人しかいなかったCoinbaseに入社。同社在籍中は世界中を飛び回り、日本でも暗号資産のエコシステムを作るために日本銀行や金融庁と交渉を重ねてきました。この領域に深い知見を持つRosenblum氏に、日本の暗号資産エコシステムに必要なこと、Web 2.0投資とWeb3投資の違い、さらには「クリプトの冬」がいつ終わるのか、といったことをお聞きしました。
なお、インタビューのノーカット版を英語によるポッドキャストでお届けしています。ポッドキャストは、Apple Podcastsか、Google Podcasts、またはSpotifyからお聞きいただけます。
- ゲスト:Haun Venturesパートナー Sam Rosenblum氏
- 聞き手:Coral Capital創業パートナーCEO James Riney、同パートナー兼編集長 西村賢
The Coral Capital Podcastでは海外の投資家・起業家へのインタビューを今後も予定しています。Apple Podcastsのリンクか、Google Podcasts、またはSpotifyのリンクから、ぜひフォローしてください。
日本の規制当局はかなり早くからビットコインに注目していた
James:Coral Capitalのポッドキャストへようこそ。
Sam Rosenblum:お招きいただきありがとうございます。
James:最初に会ったのは、SamさんがCoinbaseで日本参入の仕事をしていたときだと思います。まずは暗号資産の業界に入った経緯や、日本との関係について簡単に教えてもらえますか。
Sam:もちろんです。Coinbaseに入社した2014年から暗号資産の領域で仕事をしています。それまではVisaのグローバル戦略グループで働いていました。2013年頃に担当していた仕事のひとつは、カードプロセッサーや決済ネットワークの中で、Visaが強い市場シェアを持っていない世界の市場を調査することでした。
このとき、ビットコインも調査内容に加え、仕事中にビットコインについて勉強できたんです。ご想像の通り、2013年当時のVisaはビットコインにあまり関心がありませんでした。社内でビットコインについて話しているのは私ともうひとりくらいでした。周りからは、「若者らがなにやらよく分からないことを話しているよ」と思われていましたね。
しばらくしてVisaを辞めて、スタートアップに参加する良い時期が来たと思ったのです。暗号資産取引所のCoinbaseは転職先にぴったりでした。さまざまな暗号資産系のスタートアップがある今とは違い、当時はビットコインのスタートアップしかなかったのです。中でも信頼できそうなビットコインのスタートアップはほんの一握りしかない状況でした。またCoinbaseが拠点を置くサンフランシスコにいたことも魅力に感じた理由です。
2014年の夏に入社すると、アジア太平洋地域やラテンアメリカといった海外市場でのサービス展開を任されることとなりました。そこからの5年間でビジネス開発やコーポレート部門の立ち上げなどに携わっています。2015年から2018年にかけてはCoinbaseの海外展開を率いました。日本は優先順位の高い市場のひとつだったので、当時20代半ばだった私は幸運にも日本を訪れる機会に多く恵まれました。
日本を訪問する中で、日本銀行や金融庁とのやりとりを通じてこの領域で何が起きているのかを共有し、十分な情報に基づいてエコシステムに見合う法制度が作られるよう働きかけました。この数年間はおそらく四半期に一度は東京に行っていたので、暗号資産の事業者側の観点と規制当局側の観点の両方から、東京のエコシステムを知ることができたのです。Coinbaseの仕事で最も印象に残っていることのひとつです。
James:さまざまな市場や規制環境を見てきたと思いますが、日本の第一印象はどうだったのでしょうか。
Sam:日本は規制の面で、かなり早い段階からビットコインに注目していた国であることに多くの人は気づいていません。もちろん、大量のビットコインが消失したマウントゴックス事件があったことがひとつの要因です。だからこそ規制当局は消費者を守るために動いたのです。 その結果、かなり早い段階から金融庁と日銀にはこの領域について調べるグループがありました。
これは素晴らしいことです。私は世界中を飛び回って、さまざまな地域や国の状況を見てきました。地域によっては、タイムマシンに乗ったような気分になることがあります。地域や国によって、予定されているミーティングの雰囲気や方向性をある程度予想できます。現代にいるように感じることもあれば、数年前にタイムスリップしたように感じることもあります。その点、日本は素晴らしい国でした。話の内容も興味深かったことを覚えています。どれも本当に考え抜かれた内容だったからです。
他の市場ではあまり新しいアイデアに積極的でない人や、「あなたが何を言おうと納得しないぞ」というような態度の人もいました。対して日本は暗号資産を学び、理解し、市民や消費者を守りつつ新しい産業を興そうという姿勢が強かったと思います。
インフラのイノベーションに遅れを取らない規制が重要
Sam:クリプトの世界は、今では以前と比較にならないほど複雑になりました。2014年時点のCoinbaseはビットコインの会社でしたが、今はそれ以外の暗号資産も扱う会社になっていますし、これはこの領域全体に言えることです。当初の規制の焦点は、暗号資産の比較的単純な用途に対するものでした。主に注目されたのは、ビットコインと法定通貨との交換の部分です。しかし今の暗号資産周りの技術レイヤー、エコシステム、ユースケースは複雑化しています。それぞれのケースで異なる規制が必要です。
今ほど暗号資産の規制にエネルギーが向けられている時期はありません。この傾向はこれからも続くでしょう。ただし、新しい技術を規制するには新しいフレームワークや考え方が必要になります。私の同僚で、Haun Venturesの最高戦略責任者であるChris Lahaneは、米国で最初に自動車が登場したときを例に、こう説明していました。クルマのない時代の人々は馬を使っていたので、移動の最高速度は時速5マイル(約8km)ほどが普通でした。だから、フォードが初めて自動車を大量生産し始めたとき、規制当局は人がクルマの前で赤い旗を振って先導することを義務づけたのです。そうして人々にクルマが通ることを知らせるわけです。
もちろん、これは新しい技術に対する適切な規制ではありませんでした。最終的には高速道路や道路が作られ、それに伴う現代的な規制が定められています。だから暗号資産もおそらく、10年後に振り返ったとき、同じようなことになっているのではないかと思います。
また最初はクルマのときと同じように、新しい技術を既存の枠組みに無理やり当てはめようとするものです。単純で分かりやすい用途ならそれでも多少の効果はあるでしょうが、暗号資産の用途は加速度的に複雑になっています。ですから、新しい枠組みが必要ですし、近い将来そうしたものが出てくると考えています。
西村:日本のビジネスパーソンや暗号資産愛好家の間では、日本政府はこの新しい産業に対して過度な規制をしているというのが一般的な認識でした。そうでなかったという点は興味深いです。日本の問題や環境について最新の状況を知らないかもしれませんが、日本政府はどのような規制改革に力を入れるべきだと思いますか?
Sam:現状どうなっているかは知りませんから答えるのが難しい質問ですね。一般的な回答としては、アプリケーションのユースケースだけでなく、インフラレベルのイノベーションにも遅れを取らないようにすることが重要だと考えています。
ひとつタイムリーな話があります。米国だけでなく、おそらく他の市場でも議論されていることですが、少し前にイーサリアム・ブロックチェーン上のスマート・コントラクトであるトルネード・キャッシュが米国で使用禁止となりました(編注:米財務省は2022年8月8日、暗号資産のミキシングサービス「トルネード・キャッシュ」の使用を禁止した。トルネード・キャッシュは、取引履歴を隠すためのオープンソースプロジェクトである)。
つまり、トルネード・キャッシュのスマートコントラクト自体が規制の対象となったわけです。規制がどこまで及ぶものなのか、どのような規制が適切なのかといった点において、これは重大なことです。もちろん、どの国にもこれに対する独自の考えがあるでしょうが、米国で基準となるのはアメリカ合衆国憲法です。トルネード・キャッシュの規制にも通じる話ですが、インフラの理解は先々まで影響することだと思います。そして例えば、コードのデプロイや実行と、暗号資産と法定通貨との交換との違いを知ることが重要です。これらはとても異なる性質のもので、異なる分野の法律や規制当局の対象となります。
インフラの仕組みは、アプリケーションや分散型組織など、より上位の技術レイヤーで起こることに影響を及ぼします。これは直感的には理解しづらいものです。だから、私が言いたいのは本当に理解しようと努力してほしいということです。
それに、「暗号通貨」という言葉も今では少し語弊があります。ドルや円などの「通貨」として考えている人は間違った枠組みを使っています。その枠組みで暗号資産領域で起きていることのすべてを理解することは難しいのです。
James:「暗号通貨」という言葉に語弊があるというのは、まさにそのとおりだと思います。日本では仮想通貨や暗号通貨、暗号資産などと呼ばれていますが、言葉によって世間の受け止め方が違ってきます。
日本で暗号資産スタートアップを増やすために必要なこと
James:日本には素晴らしい開発者がいて、暗号資産の分野も盛り上がっています。ところが、日本では残念ながら暗号資産は所得税(雑所得)として課税されます。 長い間投資していたとしても、キャピタルゲイン課税ではないのです。これは非常に大きな問題です。これに加え、規制周りが明確でないことから、多くの起業家が日本から他国へと移り始めています。
もちろん規制当局は税制など、特定の問題には取り組んでいるようですが、日本では物事が動くのが非常に遅くなりがちです。とはいえ、私たちのポッドキャストを聴いて、私たちのコンテンツを読んでくれている政府関係者もいます。そこで質問なのですが、日本が見習うべき暗号資産のエコシステムはありますでしょうか。
Sam:まだ、どの国や地域が暗号資産分野でトップになるのかは分かりませんが、5年、10年先にはこの分野の起業家を取り込む競争が激化することが予想されます。そして競争に有利になるひとつの方法が、適切な規制や法律を制定することです。
西村:暗号資産のコミュニティで新しいプロトコルや製品を開発している人たちを惹きつけるためには、どんなことが重要なのでしょうか?
Sam:一番に思い浮かぶのは、「人々の開発する力を抑圧しない」ことでしょう。トルネード・キャッシュの例に戻りますが、自分が書いたコードによって文字通り逮捕される可能性があるなら、開発者は恐ろしくて開発できません。
もちろん、これは単純化した話ですが、開発者はコードを書いても罰せられる心配がなく、安心してオープンソースのコードを公開できると感じるべきでしょう。これは非常に基本的なことですが、非常に重要なことです。私の知る限り、アメリカの歴史において、コードを公開したことで逮捕されたソフトウェア開発者はいません。しかし、ヨーロッパではそのような事例が起きてしまいました。だから「開発する力」を締め付けないことが重要だと思います。特に、世界をより良く変えようとしている人たち、イノベーションを起こそうとしている人たちにとって、開発する自由があるということは本当に重要なことです。
もちろん、これは基本的なことだと思います。次にJamesが指摘したように、特定の資産クラスへの課税方法という単純なものでさえ、この分野のビジネスや個人に大きな影響を与えます。市場はこの面で競争し、暗号資産業界や業界の起業家が拠点を置きたい、あるいは住みたいと思えるよう魅力的な場所にしようとするのではないでしょうか。
Web3投資とWeb 2.0投資の違いは?
James:先日、私たちはWeb3スタートアップへの投資に前向きな考えを持っていることを宣言するブログ記事を公開しました。しかし、Web3の企業にはまだ投資できていません。その理由は、正直に言うと、どのソリューションも「解決すべき問題を探している」ように見えるからです。実際にプロダクトマーケットフィットしているかどうかにも議論の余地があります。
そこでお聞きしたいのが、Web3とWeb 2.0の領域への投資の考え方についてです。Web 2.0であれば「何が問題なのか?」「解決策は何か?」「プロダクトマーケットフィットはあるか?」といった基本的な質問をして判断できます。一方、Web3では別の考え方をしなければならないように感じています。SamさんはWeb3の投資では何を重視しているのでしょうか。
Sam:この点については、このポッドキャストには収まりきれないほど話せます。とはいえ、この領域での投資は当分の間は無視して、興味を持てるプロダクトが登場するまで待つのもいいと思います。暗号資産は急速に進化していますが、その進化は技術レイヤーの最下層の構築から始まっているからです。私にとって今の暗号資産で最もわくわくすることは、技術の多くが基本的なものであるという点です。例えばイーサリアムの分散型のコンセンサスの仕組みは基本のインフラであり、これ以上基本となるものはないくらいです。
この点はWeb 2.0と大きく違います。単純化しすぎる説明かもしれませんが、Web 2.0のベンチャー投資では、収益を上げる方法がいくつかあり、その方法を実践する企業に投資していました。そして会社が収益を出すようになると、持分の価値も増えます。優れたアイデアがあり、それなりの市場規模があれば、価値がどう増えるかについては比較的わかりやすいと言えるでしょう。
一方、暗号資産プロジェクトのほとんどはオープンソースソフトウェアから派生したものと考えることができます。「経済的なインセンティブのあるオープンソースソフトウェア」ということですが、これはベンチャー投資家が投資対象とするには、まだかなり新しい概念です。これまでベンチャー投資家がビジネスモデルの確立してないオープンソースソフトウェアに投資することはなかったわけですから。
暗号資産の価値が増えるスキームはさまざまありますが、それは主に技術レイヤーのどこに位置するかと関連しています。イーサリアムのような最下層のシステムに投資する場合、スマート・コントラクト・プラットフォームとしてのイーサリアムが成功する要素が何かだけでなく、なぜトークンの価値が上がるかを理解することも重要です。会社の株式に投資しているのではなく、ネットワークを動かすトークンに投資しているわけですから。これは技術レイヤーの上層に行くほど考える必要がある点です。私が以前働いていたCoinbaseのような中央集権的なビジネスでは、事業が価値を生み出す方法は従来のモデルに少し近づきます。
そしてプロジェクトの創出価値をもとに会社の評価額が算出され、所有する持分の価値も高くなるというわけです。Jamesの質問に戻ると、現在の暗号資産の業界ではどの層も同時進行で発展していて、ある層での発明や発見は別の層の活動に影響することになります。
「解決すべき問題を探しているソリューションが多い」とおっしゃいましたが、ある日、突然扉が開くかのように可能性が広がるかもしれません。そこから価値を創出する方法が明らかになり、収益も得られるようになると私は考えています。
例えば、GPSが存在する前にUberが創業していたとしたら、あるいはiPhoneやiOSが存在する前にUberが創業していたとしたら、企業としての価値はかなり低かったと思います。しかし、2007年にiPhoneが発売され、誰もがポケットにGPSを搭載したデバイスを入れて歩き回るようになりました。そうなって初めて、Uberのマーケットプレイスモデルが非常に価値あるものになったのです。
James:その例で言うと、GPSには独自のユースケースがあります。「現在地を知りたい」という実際に存在する問題を解決を解決するために開発された技術です。iPhoneも多くの問題を解決しています。そしてiPhoneの製品化からUberやInstagramなど別のビジネスチャンスが生まれました。ただ、Web3ではまだそのようなことにはなっていません。それはまだ日が浅いからかもしれませんが、少なくとも日本ではそのような大きなビジネスチャンスはまだ見当たらないと感じています。
Sam:この場合は乗客とドライバーのマーケットプレイスモデルに例えると分かりやすいかもしれません。理論的には、そのマーケットプレイスには価値がありますよね。しかし、それはサンフランシスコから東京にやって来た日本語を話せない人にはあまり役に立ちません。そのマーケットプレイスにアクセスできないからです。現状のWeb3はそのように例えることができるでしょう。
現在トークンやNFTの作成と利用を促進する企業が登場しています。まだトークンやNFTの活用は始まったばかりですが、例えば、特定のグループやコミュニティが、NFTやトークンを持つ人だけが参加できる店舗を立ち上げるためのプラットフォームなどがあります。これは私たちのポートフォリオ企業であるHighlightの事業で、人々が今使えるNFTのサービスを提供しています。ただし、NFTの用途は2年、3年、4年後には全く違うものになっているかもしれません。
暗号資産を使った問題と解決策という広い意味で言うと、新たな可能性が開けるのはいつになるか分かりません。それがどの層からやってくるかさえもまだ分からないのです。
先ほどのUberとGPSの話に戻ると、GPSの開発には20〜30年かかっています。最初のプロトタイプが登場したのは70年代前半で、軍が使用した最初のMVP(実用最小限の製品)ができたのは90年代半ばのことです。ですから、形になるには本当に長い時間がかかります。
iPhoneもさまざまな理由で実現まで時間がかかりました。さらにUberが最初の都市でサービスを正式に開始したのは2011年のことです。2007年にiPhoneが登場してから、2011年にUberが登場するまで数年がかかっています。Uberを成立させるすべての要素は揃っていましたが、ぴったりの組み合わせになるまで時間がかかったということです。
Web3でも同じだと思います。Web 2.0との違いは、Web 2.0ではインフラからアプリケーションへ、順を追って発展したのに対し、Web3では70年代初頭から2011年にかけて起きたようなことが同時進行で起きている点です。
「イーサリアムは数年後、ビットコインの価値を超える」
西村:暗号資産の歴史に残る大きな出来事の1つとして、まもなくイーサリアムの大型アップデートである「マージ」が行われます。(編注:2022年9月15日に実施され、完了した)。このマージでは何が期待できますか?
Sam:そうですね。本当に大きな出来事です。イーサリアムが2015年の夏にローンチしたときから計画に含まれていたことなので、7年がかりで実現したと言えます。マージが問題なく完了すれば、当初イーサリアムが設定した技術的なロードマップの約半分まで進んだことになります。
今回のマージでは、非常に具体的なアップデートが実行されます。それはイーサリアムのブロックチェーンがプルーフ・オブ・ワーク(PoW)のコンセンサスモデルから、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)のコンセンサスモデルに移行するというものです。とても大きな変更ですが、今夜変わるのはこの部分だけです。
ユーザーや開発者がイーサリアムで気にしていることは、より速く、より安く使えるようになることでしょう。今夜のマージではそのどちらも実現しません。こうしたことは今後予定されている4つの重要なアップデートで対応が終わります。
しかし、イーサリアムだけでなく、技術レイヤーのすべての層にとって今回のマージが非常に重要なのは、イーサリアムが何千億ドルもの資金を動かす稼働中のシステムであることと関係しています。稼働したままマージが実行されるのです。1週間止めて調整してから再起動するということではないのです。多くの人が使っている例えですが、これは高速道路でクルマを飛ばしながら、元のガソリン車用のエンジンを新しい電動モーターに交換するようなことなのです。
これはエンジニアリングが進んだことに加え、多くの人が力を合わせることで達成できた偉業です。最も価値のあるスマート・コントラクト・プラットフォームのコンセンサスの仕組みがこのような形で更新されるという事実は、まだこの領域が黎明期にあることに加え、すべての基盤となっている最下層の技術レイヤーでさえ進化し続けられることを証明しています。
James:イーサリアムがビットコインの価値を越えることはあるのでしょうか。
Sam:現在、ビットコインはドルベースで最も価値があるブロックチェーンシステムです。2位がイーサリアムです。この順位が逆転することになるか、ということですね。この質問に答えるのは難しいのですが、将来的にはそうなると私は考えています。
この2つのシステムは多少の共通点がありますが、ビットコインの価値は、イーサリアムの価値とは全く異なるのです。イーサリアムは研究者やエンジニア、ノードオペレーター、バリデーター(ブロックチェーンに記録されるデータの内容が正しいかどうかを検証するノードのこと)など、世界中のグループや個人の分散型のグループの参加により成り立っています。彼らや彼女らは全体の利益のためだけでなく、個人の経済的な利益のために参加していますが、この仕組みで強固なエコシステムが成り立つことを実証したのです。暗号資産の実験で試されているのは、人間の協調性と新しいインセンティブの構造であると私は考えています。
ビットコインが非常に興味深い存在なのは、仕組みがあまり変わらず、人々は今やっていることを続けるだけで、すべてが機能し続けることが期待できる点です。数年後、ビットコインが世界の基軸通貨とまではいかなくても、そのような方向に向かう可能性はあります。そうなれば、もちろん非常に大きな価値が生まれます。イーサリアムでは、すでに述べたような理由から革新的な進化を続け、たくさんの開発者が参加し、アプリケーションが構築され続けるでしょう。
どちらのシステムにも価値が劇的に上昇する可能性はあります。数年後により高い価値のネットワークになっていると思う方を選べと言われたら、私はイーサリアムに一票を投じたいと思います。
「クリプトの冬」の功罪
James:「クリプトの冬」はいつ終わると思いますか。
Sam:もう終わりが来ることを期待しています。よく言われるように、これは「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」の好例で、今回の冬は過去数回と同じようなものになると思います。少なくともセンチメントの面では不安定になり、次の強気相場が来るまでにまだ数年はかかるのではないでしょうか。
とはいえ、相場のサイクルには良い面も悪い面もあります。強気相場の良い面は、資本だけでなく、新しい才能がエコシステムに入ってきやすくなることです。実際、これを示す素晴らしい例がたくさんあります。2014年に登場したイーサリアムや、UniswapやOpenSeaなどです。どれもこの領域にたくさんのエネルギーがあり、期待が寄せられ、フルタイムで関わる人材が多くやってきた時期に誕生しました。
そして弱気相場になると、足元の床が突然抜けたように感じるものです。恐ろしいけれど、弱気相場には事業に集中しやすくなるという良い副作用もあると思います。プレッシャーを感じることなく、ただひたすら作りたいものを作ることに集中できます。
強気市場では常に最新・最高のものを追いかけていかなければならないというプレッシャーがあります。これには良い面もあります。ただ、特にアーリーステージの企業にとっては弊害になることもあるのです。常に最新のトレンドを追いかけるのは、事業から気が逸れる要因にもなりえます。投資家や取締役に「最新のトレンドはこれだと記事で読んだけど、なぜやっていないんだ?」と言われることもあるでしょう。これは弱気相場ではあまり起きません。
つまり、強気市場では企業やプロジェクトを実現する人材や資金の流入があります。一方、弱気相場は、集中してひたすら計画を実行に移せる時期です。もちろん、弱気相場はさまざまな理由で本当に苦しいものです。経済的にも、心理的にも、感情的にも困難が伴います。それでも私は弱気相場が当社の支援するスタートアップにとって、集中して計画を進められる時期になることを期待しています。
James:なるほど。最後になりますが、日本の暗号資産領域にいる起業家があなたに連絡を取りたいときはどうすればいいですか?
Sam:TwitterのDMは開いていますし、Coral Capitalからの紹介でも受け付けていますよ。今日はありがとうございました。