プロダクトを急成長させる「ネットワーク効果」を体系化した書籍『ネットワーク・エフェクト 事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク』がスタートアップ業界で読まれています。オリジナルの英語版は2021年12月に出版、すでに約10万部を売るベストセラーとなっており、待望の日本語版が11月に出て話題となっています。
著者はシリコンバレーのトップティアVCとして知られる、Andreessen Horowitz(a16z)パートナーのAndrew Chen(アンドリュー・チェン)さん。IPO前のUberでグロースチームを率いた後、a16zでClubhouseやSubstackなどに投資し、取締役も務めています。
そんなAndrewさんに大成功したサービスの実例を交えてもらいながら、ネットワーク効果の本質について伺いました。これからプロダクトを軌道に乗せたいスタートアップや、プロダクト開発に携わっている方にとって参考になるはずです。
なお、インタビューのノーカット版を英語によるポッドキャストでお届けしています。ポッドキャストは、Apple Podcastsか、Google Podcasts、またはSpotifyからお聞きいただけます。
- ゲスト:Andreessen Horowitz ゼネラルパートナー Andrew Chen
- 聞き手:Coral Capital創業パートナーCEO James Riney、同パートナー兼編集長 西村賢
The Coral Capital Podcastでは海外の投資家・起業家へのインタビューを今後も予定しています。Apple Podcastsのリンクか、Google Podcasts、またはSpotifyのリンクから、ぜひフォローしてください。
James:Andrewさん、Coral Capitalのポッドキャストへようこそ。
Andrew:お招きいただきありがとうございます。
James:Andrewさんの著作『ネットワーク・エフェクト 事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク』(原題「The Cold Start Problem」)が日本で発売されました。プロダクト開発に関心がある人たちが早速ツイートしています。そこでこの本について詳しくお聞きしたいと思います。はじめに、本書を書いたきっかけについて聞かせてください。
そもそも「ネットワーク効果」とは?それが発生しているとどう判断するのか?
Andrew:ええ、もちろんです。私が働いているAndreessen Horowitz(a16z)というVCは13年前に創業し、素晴らしい企業に投資してきました。
入社して興味を持ったのは「本当に大きくなって大成功する会社と、そうでない会社の違いは何なのか」ということです。この点についてa16zのパートナーは必ずと言っていいほど「ネットワーク効果」を挙げます。「この言葉はよく聞くな」と思ったのですが、ネットワーク効果が発生しているとどうやって分かるのだろうと、疑問に思っていました。そこでこの本はSlackやDropbox、Tinder、GoogleなどのCEOや創業者とのインタビューを通して、それを解き明かそうとしています。
また「ネットワーク効果」という言葉は100年以上も前からあります。最初に電話網を構築したアメリカ電話電信会社(American Telephone And Telegraph、現在のAT&T)もこの概念について触れているのです。これまで解明されてきませんでしたが、今がこれを解き明かす最適な時期なのではないかと思っています。SNSや職場向けコラボレーションツール、マーケットプレイスを作る上で非常に強力なものだからです。
James:なるほど。そもそもネットワーク効果とは何なのでしょうか。またネットワーク効果があるとどう判断できるのでしょう。
Andrew:それが最も典型的な質問ですね。まず非常に簡単な定義から始めて、それから説明したいと思います。
ネットワーク効果の最も単純な定義は、「多くの人が使えば使うほど、時間の経過とともに製品の有用性が増す」というものです。古い例を挙げれば、電話がこれに該当します。電話機を持っていても、友達が誰も持っていなかったらあまり役に立ちませんよね。けれど、みんなが電話を持つようになると本当に価値のあるものになり、誰も手放したくなくなります。
もうひとつ考えたいことは、ある国ではWhatsAppが、別の国ではLINEが、また別の国ではカカオトークが人気なのはなぜかという点です。その理由は人は友人が使っているアプリを使うからです。だから離れづらくなり、さらにバイラルでのユーザー獲得も促進されます。つまり、広告ではなく、ユーザーがユーザーを紹介するかたちで成長できるのです。これはネットワーク効果の一種です。
「製品から離れづらくなること」が2つ目のネットワーク効果です。3つ目は、多くの人が使うことで「収益性が向上すること」です。例えば、社内の10人しかSlackを使っていなかったら課金しないかもしれませんが、全社員が使っていたら課金するでしょう。検索やアドミン機能、管理権限といった機能を使いたくなるからです。
ネットワーク効果というのは、製品が軌道に乗ると強力に作用します。コールドスタート問題を解決して製品が本当に機能するようになると、こうしたあらゆる恩恵を得られ、競争力が高まるのです。他社は機能をコピーできても、ネットワークまではコピーできないですから。
ユーザー数ゼロから軌道に乗せる、「コールドスタート問題」をどう解決するか
James:ネットワーク効果が非常に重要であることは多くの人が理解していると思います。本の中でネットワークの「ハードサイド」について触れていますが、どのようにすればネットワーク効果を発生させ「コールドスタート問題(※)」を解決できるのでしょうか。
※コールドスタート問題は本書で説明されている、ユーザー数がゼロの状態からどのようにユーザーを増やし、製品を軌道に乗せるかという問題。誰も使っていないサービスにユーザーは定着しないので、ネットワークを持つ製品が成功するには必ずこれを解決しなければならない。
Andrew:そうですね。この本の核となる概念ですから、まずネットワークの側面について少しお話ししたいと思います。そのためにWikipediaの事例を紹介したいと思います。
Wikipediaの記事の大部分はたった5万人ほどの編集者によって書かれたものだと話すと、多くの人は驚きます。編集者は楽しいからという理由で無償で記事を書いています。そしてそれを何億人もの人々が利用しているのです。すごいことですよね。
このように、製品をよく見てみると、役割の異なるユーザーが存在することが分かります。例えば、YouTubeやTikTokには動画の製作者と視聴者がいます。DropboxやGoogle Driveのような製品ではファイルを作って同僚を招待する人と、招待される人がいます。ネットワークには複数の側面があるのです。
さらにこれを観察するとあることが分かります。私はUberでドライバーと乗客の両方をグロースさせる仕事をしていたので経験があるのですが、ネットワークの一方は、ネットワークのもう一方よりも獲得がずっと難しいのです。
Uberのドライバーは週に50~60時間運転していて、Uberのドライバー向けのアプリから仕事を受けています。乗客はドライバーの30倍から40倍もいます。だからドライバーの希少性は高く、獲得に多くのコストがかかるのです。他のサービスでも似たようなことが起きています。
Wikipediaには読者と編集者がいます。Tinderのような製品には男性と女性がいます。両者の行動は非常に異なります。コールドスタート問題を解決するためには、ネットワークのハードサイド、つまり獲得がより難しい方のユーザーを十分に獲得する必要があるのです。
そして、この人たちを取り込むには、彼らが抱えている問題を解決する製品を作らなければなりません。それができればネットワークのもう一方のユーザーは楽に獲得できます。どの製品にもこのような力学が働いています。
Tinder成功のきっかけは“魅力的な人たち”を取り込んだこと
James:Tinderはコールドスタート問題をどう解決したのでしょうか?
Andrew:Tinderは2つの点で成功しました。まずTinderが本当に解決している問題は何なのかという点について説明したいと思います。Tinder以前のマッチングアプリは、たくさんのプロフィールが並んでいて、それをクリックしてメッセージを送る仕組みでした。この仕組みの問題は何か。
マッチングアプリのハードサイドのユーザーは魅力的な人たちです。そうした人たちは人口の数パーセントしかいないので獲得が難しいでしょう。そして古い時代のマッチングサイトでは、大勢の人が魅力的な人のプロフィールをクリックし、メッセージを送っていました。すると、ハードサイドのユーザーはたくさんのメッセージに対応しなければならず、サービスの体験が悪くなっていたのです。仕事でもメールを書いて、家に帰ってもまたメールを書いているようなもので、楽しくないのです。どうやったらこうした人たちにより適切なマッチを提供しつつ、1万人からメッセージが来る状態を解消できるかが、ハードサイドのユーザーの問題を解決する鍵でした。
Tinderの創業者兼CEOであるショーン・ラッドは「Tinderは、特にハードサイドのユーザーにとってマッチングを楽しいものにした」と話していました。そしてそれをアプリの機能で実現したのです。
まずアプリをFacebookと連携させました。これで共通の友人が何人いるかがわかるようになり、安心感が増しました。また位置情報を利用しています。同じ地域に住んでいる人たちだけが表示されるのです。そうした人たちは現実世界でも会う確率が高い人たちです。加えて、例えば5人とマッチしたら、しばらくスワイプするのをやめてその5人とだけ話せる仕組みを採用しています。これでたくさんの通知やメッセージが来なくなりました。
これらがTinderを成功に導いた重要な機能だったのです。もちろん、スワイプでマッチできるのも楽しい機能です。
大学生がこぞってTinderを使い始めたきっかけは誕生日パーティーだった
Andrew:とはいえ、Tinderが最初にアプリを広めようとしたときは失敗しています。当初、彼らは友達にアプリを勧めていました。ただ、この頃はまだマッチングサイトがあまり普及していなかったので「マッチングアプリ使ってみなよ」と言うのは相手に失礼、というよりほぼ侮辱に近かったのです。仮に登録してくれても、他に10人くらいしかアプリを使っていないので、すぐに使うのを辞めてしまっていました。
ではどうすれば、何百人もの出会いを求める男女を同時にアプリに取り込むことができるのか?Tinderが思いついたのは、誕生日パーティーを企画することでした。南カリフォルニア大学でとても顔の広い女性のために豪華な誕生日パーティーを開こうと考えたのです。ただし、パーティーに参加するにはTinderのアプリをダウンロードすることが条件です。パーティー会場の家の前に係員を配置し、中に入る前にTinderのプロフィールを確認しました。それで500人の学生をパーティーに招待し、実際それだけの人数がパーティーに集まりました。
参加者はパーティーを楽しみましたが、パーティーで話せなかった人も必ず何人かいます。すると次の日、「そうだ、あのTinderってアプリを試してみよう」となります。そうしてパーティーの参加者がアプリを開いてスワイプし始め、マッチし始めたのです。
しばらくするとTinderのチームは、数百人の大学生が同時にアプリを使うようになれば、サービスは機能し、最終的にその大学の学生の大部分を獲得できることがわかりました。そしてTinderは大学立ち上げチームを作り、あらゆる大学に出向いてパーティーを開きました。そして最終的に数千万人ものユーザーを獲得したのです。
現在、新しいマッチングアプリの立ち上げは非常に難しくなっています。なぜなら、Tinderほどユーザーを集めて、たくさんマッチする状態を作るのが難しいからです。だから、これから新しいアプリを立ち上げるにはまったく別の戦略が必要となるでしょう。これがTinderの成長の経緯です。
ネットワークの性質を理解せずに失敗した「Google+」
James:とても面白い事例です。この本ではGmailやUber、Slackなど他にもたくさんの事例が紹介されています。逆にコールドスタート問題の解消における失敗例はどのようなものがありますか。
Andrew:失敗の多くは、ネットワークの性質を理解していないことに起因していると思います。マーケットプレイスでも、ソーシャルネットワークでも、どれも非常に密度の高いネットワークを構築する必要があります。多くの人に製品を同時に使ってもらいたいわけです。これが鍵だとわかれば、よくある手法が間違っていることがわかります。
例を挙げましょう。サービスを立ち上げる際、広告を買って新製品を宣伝しようと考えるかもしれません。これは特に、大企業が新製品を立ち上げようとする時にやりがちです。ネットワーク製品でも従来のマーケティング手法で製品を宣伝しようとするのです。
広告をたくさん出稿すると何が起きるか。100万人があなたの製品のことを知り、ダウンロードするかもしれません。それは良いことですが、たとえユーザーが100万人いたとしても、誰も他のユーザーとつながっていなければ脆いネットワークしかできません。それではネットワーク効果も非常に弱い。
GoogleがGoogle+を構築しようとしたとき、これと似た戦略を取りました。Googleのホームページ上で宣伝したのです。もちろん、google.comのページにリンクを貼れば多くの人が登録してくれます。実際、Googleは1億人、2億人、3億人とどんどんユーザーが増えたことを発表しました。しかしリンクを外した途端、すべてが崩壊してしまったのです。登録した人たちはサービスを使っていませんでしたし、サービス上で友人とつながっていなかったのです。
この方法の代わりに、本書では「アトミックネットワーク」と呼んでいるのですが、人々が本当にサービスを使って製品が機能する最小単位のネットワークを作る方法を紹介しています。Tinderの場合、製品が機能するには数百人の利用者を集める必要がありました。ZoomやFaceTimeといったビデオ通話の製品であれば2、3人でいいかもしれません。Slackのような製品であれば10人程度、つまりチームで使う必要があるでしょう。
製品を成功させるためには、どのくらいユーザーを集めるべきかを明確にすることが重要ということです。それが分かったら、まずはネットワークを1つ、2つ、3つと構築していきます。そして何百回、何千回とネットワークの立ち上げを繰り返していくのがよいでしょう。Uberが都市ごとに、Tinderが大学ごとに、Slackが会社ごとにサービスを広げていったのと同じです。
このようにネットワーク製品では個々のネットワークとその拡大戦略が重要なのです。これは製品を広告で大々的に宣伝したり、既存製品からのクロスプロモーションで広めたりする方法とは異なります。そのような戦略は避けた方がいいでしょう。
ネットワーク製品で注目すべき指標は?
James:この数年、スタートアップは多額の資金を調達し、マーケティングやプロモーションなどに注ぎ込むことができました。そのためノイズが多かったのですが、投資家として優れたネットワーク効果を持つ製品を探すとき、どんな指標に注目すべきでしょうか。
Andrew:とても良い質問です。2022年、世界は大きく変わりました。現在のスタートアップを取り巻く環境は以前とは大きく異なり、お金の使い方に慎重にならざるをえなくなっています。成長のために多額の資金を使うような、高成長を追求する時代は終わったということです。企業は成長率より効率を優先することが多くなるでしょう。
ちなみにユーザーがユーザーを紹介するかたちでユーザー獲得する以上に効率的な成長はありません。その点でもネットワーク効果はとても重要だと思います。
指標についてですが、ユーザー獲得、リテンション、エンゲージメントの指標をそれぞれ考えるようにしています。優れた製品なら、ユーザーは製品から離れづらくなっているはずです。だから私はいつもユーザーが登録してから30日後のリテンションを見ています。登録から30日後もユーザーの50%以上がアクティブであることが理想です。
製品によってこの数値は違うでしょう。例えば、不動産関連の製品ならもっと低くなるはずです。メッセージングアプリなら50%以上になるかもしれません。とはいえ、この数字が比較的高いことを確認したいのです。
また、ユーザーがどれだけアクティブかも重視しています。多くのサービスは日次のアクティブ率や月次のアクティブ率を測定していることが多いでしょう。職場向けのアプリなら平日の関係で週に3〜5日しかアクティブにならないかもしれません。一方で、メッセージングアプリなら理想的には1週間あたり5〜7日アクティブであることが理想です。
そしてもう1つ重要なのは、それがネットワークとどう関係しているかです。つまり、より高密度で大きなネットワークの指標が、小さなネットワークの指標よりもよくなっているかということです。
例えば5、6校の大学でサービスを立ち上げた頃にTinderに出会っていたとしたら、「最初にサービスを立ち上げた南カリフォルニア大学でのリテンションなどの指標と、新しく立ち上げた大学での指標を教えてください」と聞きます。大学でサービスを立ち上げて多くの人が登録するほど、数値が改善しているかを聞きたいのです。
これが重要なのは、新しくサービスを立ち上げた大学の指標が多少低くても、時間が経つにつれて向上するかが分かるからです。場合によっては、以前に立ち上げた大学のネットワークの指標もどんどん良くなるかもしれません。だから、ネットワークごとに指標を比較できることが重要なのです。
この指標がよければ、次にバイラル獲得の割合を見ます。オーガニックな顧客獲得が全体の何パーセントを占めているかを見るということです。資金を比較的簡単に調達できる環境では顧客コスト(CAC)と顧客生涯価値(LTV)に注目する人が多いでしょう。しかし、時間の経過とともにCACは高くなり、LTVは下がる傾向にあります。ユーザーの価値が下がったり、製品を利用する動機が低い人しかいなくなったりするからです。なので私はユーザーの50%以上がオーガニックで流入しているかに注目しています。
あとこれは指標ではありませんがTwitterやInstagram、Redditで人々がその製品について話しているかを調べます。その製品が優れているなら、みんなそれについて話しているはずですから。これでその製品が本当に流行っているのか、ユーザーが離れづらいネットワークを構築できているかが分かります。
Clubhouseはコールドスタート問題を100点の方法で解決した
James:もうひとつ聞きたいのは、Clubhouseについてです。Clubhouseは日本で大流行しました。私たちからするとたった一晩で広まったような印象です。なのでその舞台裏がどうだったのかを聞きたいです。
Andrew:Clubhouseも面白い事例です。当社が投資したとき、私は100番目くらいのユーザーでした。創業者のポールのことは以前から知っていて、彼はさまざまなアプリを開発していました。ポッドキャストを簡単に配信できるアプリやミーティングの合間に誰かと通話できるようなアプリなど、音声を使ったサービスの開発に取り組んでいたのです。そのうちのひとつがClubhouseでした。
私が見たClubhouseの最初のバージョンは部屋が1つしかなく、大抵いるのは創業者のポールとロハンの2人だけで、そこで話ができるというものでした。ですが、それでも楽しい体験を提供していました。アプリにはシリコンバレーの人たちが集まっていたのです。当時は新型コロナウイルスのパンデミックの最中でしたから、大勢の人が他者とのつながりを求めていました。
しばらくするとアプリはうまく機能し始め、ユーザーが離れづらい製品になりました。そしてポールらは、もっとたくさんの部屋を作れるようにする必要があると気づきます。当時はこの用語を使っていませんでしたが「アトミックネットワーク」を作っていったわけです。つまり、Tinderが大学ごとにサービスを広げたのと同じように、特定のテーマや話題のグループごとにサービスを広げていったということです。
加えて、ユーザーが他のユーザーを招待できる機能も実装しました。そしてClubhouseは大ヒットしたのです。当時、Clubhouseは確か10人程度で運営していましたが、毎週何百万ものユーザーが加入していました。
世界中でユーザーが広がる中で、日本でも多くの人たちがアプリを使っていると聞いて驚きました。当時、新しいクラブを作るにはClubhouseにメールを送らなければならず、社内の人員も少なかったので、日本のユーザーのためにクラブを作ることさえできませんでした。Androidへの対応もできていませんでしたね。
Clubhouseは適切な時期に立ち上げ、爆発的なバイラル効果で成長した成功例だと思います。成長に弾みがついた理由はいくつかあるでしょう。ひとつは、招待制の仕組みがうまく機能したこと。もうひとつは、シリコンバレーの技術者たちとのつながりが有利に働いたことです。著名な技術者たちが参加すると、彼らの友人である有名人たちも参加するようになりました。そしてそうしたユーザーがClubhouseのことをツイートしたことで、みんなが「これはすごい、参加したい!」と思うようになったのです。
例えばイーロン・マスクが株取引アプリRobinhoodの人たちと話をしたら、みんなが「そのルームにいた?話を聞いた?」という雰囲気になります。
James:FOMO(取り残される恐怖)ですね。
Andrew:その通りです。多くの国で起きたことが日本でも起きたのでしょう。つまり、有名なインフルエンサーがアプリを使っていることを公表して、大勢の人がClubhouseの話をするようになったのです。コールドスタート問題を100点満点の方法で解決した事例だと言えます。
Web3ゲームとクリエイターエコノミーに注目
James:なるほど。最後に、もう一度この本を書くとしたら、どんなことを付け加えますか。
Andrew:もし書き直すなら、Web3について書き足したいですね。Web3のゲームについてなどです。この分野はとても面白いんですよ。実は米国でこの本を出版した後、a16zの新しいゲームに特化したファンド「GAMES FUND ONE」に注力するようになったのです。これはアバターやメタバース、新しいゲーム事業などに投資するファンドです。
12歳の子どもたちに「どんなアプリを使ってるの? 何で遊んでる?」と聞くと、大人と同じようにゲームをしていることが分かります。ゲーム内で友達と話したり、遊んだりして、そうやって人付き合いをしているのです。だからこそ次世代のSNSはMinecraftやRoblox、Fortnite、League of Legendsなど、そういったゲームに近いものになると考えています。
そしてゲームもネットワーク効果が作用する事業です。例えば、 どのゲームで遊ぶかとなったら、友達が遊んでいるゲームを選ぶでしょう。そしてこの分野にはDiscordやTwitchのような関連製品もあります。だから、Web3、そしてゲームについてはもっと分量を割いて書きたいですね。
もうひとつ書き足したいのは、人々がクリエイティブな方法でオンラインでお金を稼いだり、生計を立てたりしていることについてです。近年、コンテンツの制作をフルタイムの仕事にする人が増えています。ライターがニュースレターやポッドキャストを発行して、生計を立てられるようにするSubstackのようなサービスが登場しました。こうしたサービスで人々は年間数百万ドルも稼いでいて、このような働き方が広がっています。クリエイター・エコノミーにとても期待しています。動画の分野でも、興味深い企業がたくさん登場しています。私の同僚はWhatnotというライブ配信で商品を売るマーケットプレイスアプリを提供しています。本当に面白い分野で、こうした事例がたくさん出てきているのです。
未来を予測するのは難しいですが、この仕事ができて幸せですね。世界がどこに向かって進んでいるのかを起業家たちから学べるし、そうした未来を実現する手助けができるのですから。
James:ありがとうございます。リスナーのみなさんも本書を手に取ってみてください。私も線を引きながら全部読みました。SaaS事業やSaaS企業の作り方などの本はたくさんありますが、ネットワーク効果についての本はあまり見かけません。この本はネットワーク効果のバイブル的な本であると思います。とてもわかりやすい解説をありがとうございました。
Andrew:こちらこそ!今日はありがとうございました。
【告知】
Andrewさんも登場する日本最大のスタートアップキャリアフェア「Startup Aquarium」が2月18日(土)に開催されます。Andrewさんは録画出演で、「スタートアップで働くこと」をテーマにしたインタビューを実施。イベント参加者に向けてメッセージをいただいています。スタートアップ転職に興味がある方はもちろん、中長期的なキャリアを考えるきっかけになるイベントですので、ぜひご参加ください。