本連載はオープンソースライセンスの1つであるGPLの元に公開されている「The Eng Team Handbook」(エンジニアチーム・ハンドブック)を翻訳したものです。開発チームが効率的に仕事するために必要な「効果的な1on1の実施方法」「開発メンバーから開発マネージャーにポジションが変わるときの注意点」「パフォーマンス評価のテンプレート集」「360度評価のテンプレート」などが含まれます。
著者はStripeのエンジニアであるrayleneさんです。これがStripeのやり方と明示されているわけではありませんが、急成長するシリコンバレーのスタートアップにおけるエンジニアチームの取りまとめ方という意味で、日本のスタートアップでも参考にしていただけるのではないかと思います。オリジナルの英文の文書では、まだ未着手の項目もありますが、すでに書き終わってるものについて翻訳し、連載の形で5回に分けて掲載します。またオリジナルの文書に対してはフィードバックや新規コンテンツも募集しています。
【開発チーム・ハンドブック】連載目次
- (1)効果的な1on1の実施方法
- (2)開発メンバーをマネージャーにするときの注意点
- (3)開発メンバーが異動で別のマネージャーの元で働くとき
- (4)360度パフォーマンス評価のためのテンプレート集
- (5)部下の評価など複数のフォーマンス評価を書くためのガイド
開発チームのためのハンドブックを書いた背景
この文書は、開発者向けのマネジメントガイドで、 開発チームを率いるマネージャーのためのオープンソースハンドブックです。
ソフトウェア開発に関してはオープンソースのライブラリをはじめ、フルスタックのツールやプラットフォームなど、素早く開発を始めるのに役立つリソースがたくさんあります。しかし、開発チームを作ることに関しては参照リンクを見たり、リポジトリをクローンしたり、自分たちのシステムに統合してすぐに立ち上げるためのリソースを見つけるのは簡単ではありません。
このプロジェクトは、開発チームが自分たち考えたり、ゼロから作ったりしなくて済むように、すでにコーディングでは行っていること(オープンソースのコラボレーション、モジュールやテンプレートの提供)を開発チーム作りに適用したものです。
このガイドは読んですぐ使えるよう「ハウツー」の説明と各自のニーズに合わせて使えるテンプレートで構成しています。開発チームは全てそれぞれ異なるので、自分のチームに合わせて必要なモジュールを選んでカスタマイズしてください。
効果的な1on1の実施方法
開発チームのマネジメントに定期的な1対1のミーティング(1on1:ワンオンワン)が広く取り入れられています。1on1は日常業務に関する問題について話すだけでなく、マネージャーとチームメンバーがより個人的な関係を築く良い方法です。著名VCのAndreessen Horowitzの創業パートナーであり、成功したテック系起業家でもあるベン・ホロウィッツは以下のように述べています。
「1on1は社員の持つ情報やアイデアを吸い上げる優れたメカニズムです。1on1というのは、仕事上の報告やメールをはじめ、個人的な親密さに欠けるメカニズムにはうまく収まらない差し迫った問題や優れたアイデア、慢性的な不満を聞くための自由形式のミーティングのことです」(ベン・ホロウィッツ)
チームのリモート化が進むのに伴い、ビデオ通話や音声通話を通じてチームメンバーと個人的なつながりを維持する重要性が高まっています。マネジメントは子育てとは違いますが、科学的な研究によると、家族間のテキストでのコミュニケーションは、電話で話をするよりストレス緩和の効果が低いことがわかっています。
1on1の仕方に正解はありませんので、このガイドでは1on1の目標や実際に行うときのヒントやコツ、ミーティングをどう構成するかについて説明しています。これはマネージャーに向けのガイドですので、「あなた」というのはマネージャーを指します(チームメンバーはあなたの部下のことです)。
クイックスタートガイド
手っ取り早く始めたいなら、以下を試してみてください。
- チームメンバーと毎週30分、1on1を行う予定を立てる。
- ミーティングでの議題や話し合いたいことについて記録を取る(例:共有のGoogle Docs、ノートにメモを取る)。
- 後述する「1on1の時間配分の例」を参考に1on1を実施する。
初対面のマネージャーとチームメンバーで初めて1on1をするなら、最初の数週間は次のように過ごすと良いでしょう。
- 1週目:お互いを知るために話をします。
- 2週目:チームとメンバーの役割、パフォーマンスの考え方について話し合います。
- 3週目:メンバーの長期的、短期的なキャリアの目標について話し合います。
- 4週目:現時点でのマネージャーとチームメンバーによる双方向のフィードバックを行います。
- 5週目以降:通常の1on1を実施します。
1on1の目標と実施する理由
マネージャーが1on1をする理由
- チームメンバーと個人的なつながりを持ち、信頼関係を築くため。
- チームメンバーのキャリア開発や目標について話す時間を設けるため。
- 双方向のフィードバックを行うため。
- 問題の提起と解決を行うため。
- 仕事の優先順位を示し、必要な場合は他の仕事を断わるのを助けることで、チームメンバーが自分の仕事に取り組めるようにするため。
- チームメンバーに組織や全社的な動向について継続的に情報を提供するため。
- チームメンバーが仕事にやりがいを持ち、満足できるようマネージャーがコミットしていることを示すため。
1on1の目的でないもの
- プロジェクトや日常業務の進捗確認。
- 雑談や目的のない会話。
1on1のスケジュール:ミーティング時間と頻度
1on1の適切なミーティング時間と頻度は各人の状況によるので、チームメンバーの全員と同じ時間と頻度でミーティングをする必要はありません。
- マネージャーとチームメンバーで定期的なミーティングを設定します。
- 2人にとって都合が良い日時であるかを確認し、必要であれば予定を変更できるようにします。
どちらも必要に応じてミーティングの予定を動かせられるようにするといいでしょう。
ミーティング時間
- 1時間:1on1では最長の長さです。1on1の開催頻繁が低い場合は1時間にすると良いでしょう(ただし、1時間ずっと生産的な話をするのは難しいかもしれないので、最初は短めのミーティング時間にし、必要に応じて延長しましょう)。
- 45分:中間の長さ。初対面のチームメンバーと話すときに設定することが多いです。
- 30分:一般的な1on1の長さ。生産的な議論をする必要最低限の時間です。週次のミーティングで設定することが多いです。
最初は30分か45分で週次のミーティングを設定し、メンバーとの関係性に応じて時間を調整しましょう。
マネージャーは、チームメンバーと1、2週間ごとにミーティングするのを目安にすると良いでしょう。
事情によりミーティングの頻度がこれ以下の場合は、他の方法でチームメンバーが必要なサポートを受けられるようにしましょう。例えば、代わりにメンターと1on1をできるようにする、あるいはチームに新たなマネージャーを加えようとしていて、引継ぎのサポートをしている場合はそのことをチームメンバーに明示します。
アジェンダの作成
生産的な話をするために、ミーティングで話すことについて考えをまとめた上で1on1に臨むことが重要です。
話す内容は大まかに次の3つのカテゴリーに分けられます。
- 今すぐ、あるいは今週中に話し合うべきこと。
- 今すぐ話す必要はないけれど、近々話し合うべきこと。
- 長期的な検討事項や目標について。
(1)今すぐ話し合うべきこと
- 緊急に対処しなければならないことや仕事の妨げになっていること、現在進行中の仕事や直近の仕事に関連することなど。
- チームメンバーからの相談事は、すべて(1)に該当しますが、緊急性が低い内容であれば、後でフォローアップする形でも良いでしょう。
- 最近のチームや会社、チームメンバーに関連する重要な出来事について(例:新しいチームメンバーの加入や組織再編、パフォーマンス評価や目標設定の予定など)。
(2)近々話し合うべきこと
- 以前のミーティングから繰り越したもので、解決すべき問題。
- 今すぐではないけれど、今後、仕事に関わってくることについて。
- 近いうちに予定されている会社/チーム/組織に関する変更について。
(3)長期的な検討事項や目標について
- ここではチームや会社、戦略についてオープンエンドな質問をしても良いでしょう。
- チームメンバーの長期的なキャリア形成や目標について考えていること。
- 個人、あるいはキャリア上の目標や進展など、過去に話したことで続きを話す必要があることについて。
- チームメンバーの発展や成長に役立つフィードバックなど。
議論を深掘りするための質問
- チームの状況はどうですか? 私たちは正しいことに取り組んでいると思いますか? チームのメンバーは協力して生産的な仕事ができていますか? 私たちは最大限生産性を発揮できていると思いますか?
- 会社全体の目標や進展についてどう思いますか? あなたがワクワクしていることは何ですか? 反対に前向きでないことは?
- 最近の全社ミーティングや発表、組織/プロセスのアップデートについて何か意見はありますか?
- プロジェクトXはうまくいったと思いますか?
ベン・ホロウィッツのガイドにもいくつかの素晴らしい質問がありました:
- 改善できることがあるとしたら、会社としてどのように取り組めばいいと思いますか?
- 私たちの組織における最大の問題は何ですか?その理由は?
- ここでの仕事が楽しくないと思うのはどんなときですか?
- 社内で本当に活躍しているのは誰だと考えていますか? 尊敬している人はいますか?
- あなたが私の立場だったら、何を変えますか?
- 私たちのプロダクトで気に入らない部分はありますか?
- 私たちが見逃しているチャンスがあるとしたら、それは何だと思いますか?
- 会社で取り組むべきなのに、できていないと思うことはありますか?
- ここで働くことに満足していますか?
(3)に該当する長期的な議題はミーティングのアジェンダからこぼれ落ちてしまいやすいので、いくつかは定期的に(1)の項目に入れて話し合ってください。
メモの取り方
どのようにメモを取り、共有するかはあなた次第です。ここにはいくつか提案を記します。
オンラインドキュメントを共有(例:チームメンバーとGoogle Docsを共有する)
【メリット】
- マネージャーとチームメンバーのどちらも簡単にメモを残せる。1週間を通し、いつでも話し合うべきことを確認できる。
- 過去に話したことや同意したこと、次にすることの確認に役立つ。
【デメリット】
- ミーティングの内容が過度に形式的になり、その場で浮かんだ心配事や話題について話す余地がなくなる。
- メンテナンスに手間がかかる。
自分用のメモ(例:手元のノートやクラウドファイル)
【メリット】
- 個人的な内容や内密なメモを簡単に残すことができる。
- 過去に話した内容を知る参考になる。
【デメリット】
- マネージャー側の会話の記録しかない(話したことを文章にして共有することは有益なことが多い)。
- 将来、他のマネージャーに引き継ぐのが難しい。
メモを取らない
メモを残さないのなら定期的に話した内容を書き出し、メールなどでフォローアップするようにしましょう。
【メリット】
- 運用が簡単。
- ミーティングをお茶しながら話すようなカジュアルで気軽な雰囲気にできる。
【デメリット】
- 過去に話したことやこれから話することが分からなくなりやすい。
- 過去に話した内容の記録がない。
1on1の時間配分の例
1on1の仕方に正解はないので、ここでは上記の点を考慮した上で、1on1での時間の使い方の例を紹介します。
注:重要な議題は深く掘り下げて話した方が良いこともあるので、必要ならスケジュールに縛られず、自由に話し合ってください。
場を温める(最初の数分):カジュアルな世間話や最近どうしているかなど、一般的な話をします。
アジェンダ(ミーティングの大部分):共有ファイルがあるなら、それを参考にしながら話をします。
- 予定していた内容や議題について話し合う。
- 事前に考え、準備していたことを伝える。
- チームメンバーが話題に出した内容について話し合う。
その他の議題(残り時間で):アジェンダの議題が終わり、時間が余ったら、長期的な議題や緊急性は低いけれど話し合う価値のある議題を取り上げます(上に挙げたアジェンダ作成の項目に戻り、質問例をご覧ください)
クロージングと次のステップ(最後の数分):ミーティングで話し合った内容をまとめ、フォローアップすべきアクションや次のミーティングで話すことを確認します。共有ファイルや他の方法でメモを取っているなら、次回のために記録を残しましょう。
参考資料:
ベン・ホロウィッツの1on1ガイド:https://a16z.com/2012/08/30/one-on-one/
ハーバード・ビジネス・レビュー:https://hbr.org/2016/08/how-to-make-your-one-on-ones-with-employees-more-productive
Editorial Team / 編集部