スタートアップにとって投資家の数は多いほうがいいのか?

エクイティーを使った資金調達では、同じタイミングで複数の投資家(エンジェル投資家・VC・事業会社など)から出資を受けることが少なくありません。特に個人のエンジェル投資家からプレシード資金を調達するケースと、レイターステージで大型資金調達をするようなケースでは、投資家の数が10前後に達することもあります。

Coral Capitalは主にシード期のスタートアップを対象として投資をしていますが、ときどき創業者の方から受ける質問に、投資家の数は少ないほうがいいか、多いほうがいいのかというものがあります。

応援団は数よりも幅の広さ

一般論を先に書くと、投資家の顔ぶれが多様であれば、それだけ紹介可能な人脈や知見に幅が出て有利です。応援団は多いほうが良いという観点です。創業メンバーの構成でも同じことが言えて、創業メンバー全員が同じコミュニティーに属するとき、異なる人脈につながっているメンバーが加わると価値が出しやすいことがあります。エンジニアばかりのところにビジネス系のメンバー入る、あるいは、その逆というのが典型的です。

投資家も同じです。バーティカルSaaSなら、SaaS全般に通じている投資家、海外機関投資家ネットワークに強みを持つVC、当該事業領域で経験豊富なエンジェル投資家などといった具合です。エンジェル投資をしているわけではないものの、業界のハブとなっているような人物に少額出資をお願いする、というのもよくある話です。

米国で30年以上にわたってスタートアップ投資をしていて高い実績を持つベンチャーキャピタリストのFred Wilson氏は、「多様な投資家から出資を受けるメリット」という記事の中で、性別や人種の多様性に加えて「事業家目線」と「投資家目線」という異なる視点を持つ出資者をボードメンバーにすることのメリットを書いています。

経営のハンズオンや採用支援など、VCが提供する付加価値は異なります。ここも同様にどこのVCに何を期待して出資を相談するのか、ということになります。ただ、スタートアップ投資を本業とするVCは出資比率に基準をもうけていることが多く、同じ調達ラウンドでの出資者の数が増えると「降りる」VCが出てきます。特にアーリーステージでの出資の場合、会社が成長して資金調達を繰り返すごとに持分比率が減っていく、いわゆるダイリューション(希薄化)が起こります。それを見越してシードで8%以下の出資はしないというような最低のシェア確保基準をもうけているVCは少なくありません。こうしたこともあって小さな出資比率で多数のVCから出資してもらうというのは現実には難しいでしょう。

数が増えるとコミュニケーションや意思決定のコストが上がる

一方で、投資家の数が増えるマイナス面は、コミュニケーションや意思決定のコストが上がることです。

これは投資時の契約条件で少し変わってくる話です。どういう経営上の意思決定のときに、どの出資者の事前承認が必要なのか、あるいは事前通知が必要なのかということは会社法で決まっていることに加えて投資契約で違ってきます。そうした契約上の違いはいったん置いておいて、ここでは、より影響の大きな投資家の種類による違いについて書いてみます。エンジェル投資家かVCか、あるいはCVCや事業会社かで、かなり変わってくる話だからです。

エンジェル投資家は「応援したい」という気持ちで出資していることが多く、細かく事業の進捗や数字のレポーティングを求めたりするケースはまれです。人によっては出資したことを忘れてしまっていて、「はじめまして」と若手起業家に名刺を差し出したところ、「いえ、ご出資いただいています!」と返事をされて驚いたという笑い話もあるくらい鷹揚な出資者もいます。案外困るのは連絡がスムーズでない出資者です。何も支援が必要でない局面で放っておいてもらえるのは起業家としては歓迎でしょうが、例えば株主の決議が必要なときや、追加資金調達でキャップテーブルを整理する相談をしたいようなとき、メッセやメール、電話などで相手がつかまらないと困ることになります。

さらに、プレシードなどで多数の少額の出資者が薄く広くいる「パーティーラウンド」と呼ばれる資金調達の場合、個々の投資家の支援のインセンティブが小さくなります。同時に「ほかの出資者がいるから」という理由で、いわゆる伴走者としての支援者が不在になることもあり得ます。これは追加資金調達や、会社としての大きな意思決定をするときにもやっかいなことがあり得えます。まとめ役を譲り合ってしまってボールが落ちることがあるからです。最終的に誰が株主全体の意見やディールをまとめるのか、というときに譲り合いが発生してしまうわけです。これがリード投資家の存在に意味がある理由でもあります。

事業会社による出資を受ける場合には、その法人の会計監査上の問題から、比較的詳細に売上や事業進捗のレポートを求められるケースも出てきます。事業会社から出資を受ける理由は、知名度を背景にした営業力向上、大手の持つ営業リソースの活用、新規プロジェクトの共同立ち上げなどでしょうが、コミュニケーションコストの問題からも、あまり早い段階で出資者として迎えるスタートアップは多くありません。

このあたりの事業会社から調達することに関しての機微については、Coral Capital創業パートナーCEOのJames Rineyが書いた、以下の連載記事も参考にしていただければと思います。

連載目次
第1回:事業会社から調達する前に知るべき3つの投資体制の違い
第2回:事業会社から調達して本当にシナジーが生まれるのか?
第3回:「信用力」のために、スタートアップは事業会社から資金調達すべきか?
第4回:事業会社からの資金調達が競争環境に与える影響
第5回:どのタイミングで事業会社から資金調達するべきか?


多くの投資家から出資を受けようと思うと、当然それだけ資金調達時に創業者の時間とマインドシェア、それに長いリードタイムが必要であるというのは言うまでもありません。また出資者間の調整も数に応じて非線形に上がります。そうしたコミュニケーションや意思決定の重たさを懸念して、シードやシリーズAの資金調達ラウンドで、エンジェルラウンドやアーリーステージの株主からVCなどのファンドが株を買い取るということもあります。逆に言えば、キャップテーブルに株主の数が多すぎるスタートアップへの出資は、VCやファンドにとってはやりづらい面があるのも現実です。

Ken Nishimura

Partner, Chief Editor @ Coral Capital

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