Coral Capital出資先約80社からなるスタートアップコミュニティー「Coral Family」のうち、CTO・エンジニアが定期的に集まるCoral Developers。その中から生まれたイベント「スタートアップ開発しくじり先生LT」が5月に開催され、多くの参加者を集めました。
スタートアップの開発の失敗を赤裸々に語るライトニングトークには8社のCTOやエンジニア、プロダクトマネージャーが登壇。本記事では、株式会社カミナシでプロダクトマネージャーを務める後藤健佑氏による「これは売れる!と確信して出した機能の利用社数が1社で膝から崩れ落ちた話」と題したトークの内容をお伝えします。
後藤です。もともとはエンジニアとしてスタートしてGolang、TypeScript、AWSまわりが結構好きなんですが、今はプロダクトマネージャーとして仕様を決める仕事などに取り組んでいます。今回は表題の「これは売れる!と確信して出した機能の利用社数が1社で膝から崩れ落ちた話」をします。
カミナシは、現場改善プラットフォームです。現場のルーティンワークや事務作業を自動化し、紙やExcelの作業をなくしていくことに取り組んでいます。
監査担当者の課題を解決する機能を作ったが……
今回作った機能の登場人物は、まず監査担当者さん。次に店舗/工場の現場従業員さんです。
監査について説明します。現場、店舗、工場などの状況を定期的に確認する業務監査という仕事があります。国際規格もあり、企業によっては証明を取ったりします。大きな企業では店舗数が300だったり工場の数が100だったりで、監査担当者さんは全国を飛び回っています。
このような仕事をしている監査担当者さんは「何かに困っていないか?」と考えました。深掘りしてみると、やはり皆さん困っています。紙とデジカメで記録して、後からExcelシートに転記していたりします。担当者の異動もあり、情報の共有が大変そうでした。
そこで業務監査に関する情報共有の手間を減らそうと考え、機能を作りました。タブレットを使って写真を撮ると同時に報告書に自動的に取り込む。あるいは離れた場所からでもオンラインで確認できる。そんな仕組みを作りました。
その時点では「これは売れる、売れるぞ」と思ったのですが、前述したように利用して頂いたのは1社だけ。血の気が引きました。
業務の流れを洗い出し、間違いに気づく
なぜ失敗したのか。1番目に、お客さんの業務の流れで重要な課題を見落としていました。社内監査の課題解決のために情報共有するプロダクトを磨き込んでいましたが、それは間違いでした。情報共有する相手は実は社外が多く、そもそも使われ方が想定と違っていました。
2番目に、自社の内部(カミナシ社内)に対して、課題をうまく説明できていませんでした。営業やCS(カスタマーサポート)に対して、機能の詳細の説明しかできておらず、「なぜその顧客が困っているのか」について合意形成しない状態で開発が進んでしまいました。
早急になんとかしないといけません。そこで問題を整理するためジャーニーマップを作成し、お客さんの課題を洗い出しました。そこで社内よりも社外との情報のやりとりが大変であることを発見しました。
認識のずれを正し、「やりたいこと」を可視化するため、Basecampというサービスにある「Betting Table」を使いました。ルーレットで数字や色にコインを置いて賭けをするように、取り組むべき課題やプロジェクトを並べて可視化し、「これをやる」とチーム内で決めるための機能です。関係者の間で「会社としてこれをやるのはなぜか」を合意していくことが大事です。
取り組みを進める間に、監査に使いたいと言ってくれるお客さんが増え始めました。また、社内のチーム内でも課題を認識して協力してくれるようになりました。
一回失敗しても、しくじっても、チームが支えてくれます。チームと一緒に前に進み続けましょう。
教訓:顧客の課題と、チームの同意を見失わない
まとめます。課題を深掘りするだけでは本当にユーザーが困っている場所を探し出せません。時には白紙に戻して視点を変えて課題を見つめ直してみましょう。また、自分が思っている以上に情報共有のコストは高いことを認識しましょう。
(執筆:星 暁雄)
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Editorial Team / 編集部