Coral Capital出資先約80社からなるスタートアップコミュニティー「Coral Family」のうち、CTO・エンジニアが定期的に集まるCoral Developers。その中から生まれたイベント「スタートアップ開発しくじり先生LT」が5月に開催され、多くの参加者を集めました。
スタートアップの開発の失敗を赤裸々に語るライトニングトークには8社のCTOやエンジニア、プロダクトマネージャーが登壇。本記事では、株式会社hokanでCTOを務める横塚出氏による「組織で向き合う、しくじりと開発体制の歴史」と題したトークの内容をお伝えします。
hokanのミッションは「保険業界をアップデートする」で、InsureTechと呼ばれる領域に取り組んでいます。メインプロダクトは、保険営業向け顧客・契約管理システム「hokan」です。
いいプロダクトはいい組織から生まれるといいます。今回は、我々がどんなつまずきを経て開発体制・文化を変えていったのか、それをお話します。
私たちのプロダクトの成長を、フェーズ1、フェーズ2、「これから」の3つに分けて見ていきます。
初期段階から開発文化を蓄積する必要があった
フェーズ1は2019年9月頃から2020年4月頃まで。機能ギャップがありつつ、大型代理店2社のトライアルが首尾よく終了し、年間契約を獲得できた時期です。
このフェーズ1のときの開発体制は、事業責任者がセールス、CS、PM(デザイン含む)を兼任していました。CTOは機能開発を見ていました。
問題点は、想像される通り、(1)事業責任者の負荷増大と、(2) 属人化、品質の低下でした。
事業責任者は優秀なプレイヤーでしたが、その結果初期フェーズをなんとか回してしまう。その間に、負債が蓄積されて組織でサイクルを回すスピードが遅くなってしまいました。属人化してしまった結果、運用保守の難易度が高く、実装方法にも差分が出て、結果として品質が低下していました。
反省ですが、兼任はよくありません。当時はスピード感を重視して「気合い」だけでやっていました。その結果、組織内の対立も生まれがちで、組織文化が一気に壊れてしまう可能性もありました。この段階から、実装方針のすりあわせ、コーディング規約、相互レビューなどの文化を創っておくべきでした。
課題の発見と解決を分け、組織で認識をそろえる
フェーズ2は、2020年4月頃から2021年4月頃まで。シリーズA資金調達を行い、フェーズ1の課題を解決しつつ、事業にチャレンジした時期です。
このときのしくじりは、チャーン(顧客離脱率)を下げるべく、CSがPMを兼任していたこと、同時に人数が増えていき、役割ごとにチームを分割するのがうまくいかなかったことです。
このときの兼任体制はチャーンを下げる一時的な解決策としては悪くなく、実際にチャーンは下がり1%を切りました。しかし、組織編成を変えづらい弱点がありました。「顧客から言われた通りに作っていない」との声が開発側から上がっていました。CSも精査はしてくれていましたが、優先度付けに疑問がありました。人数が増え組織が大きくなった結果、組織全体として「このプロダクトはどこを目指しているのか」の認識を改めてそろえる必要がありました。
反省として、課題発見と解決は分けて考えるべきでした。解くべき課題の解像度を上げること、課題の解決、どちらも大変です。それぞれ工数をかけて取り組み、優先順位付けは別に行うようにしました。また、CEOが全員を集めてディスカッションし「このプロダクトはどこを目指しているのか」の認識を共有する場を作りました。
「これから」のフェーズですが、これは2021年4月から現在、今後にかけてです。2021年4月に大型代理店にて運用を開始、5月には組織編成を変更しました。
事業責任者のもとにPP(Product Planning)チームを立ち上げ中です。クォーターで解くべき課題の策定、解像度上げを行うチームです。保険業界出身エンジニアやデータエンジニア、デザイナーなどが在籍しています。
また、今後は開発チームについてもSRE、QAチームなどの立ち上げを行っていく予定です。
教訓:組織を定期的に見直そう
今回のまとめです。1番目に、顧客の課題に適切に向き合い解決するには体制が整っていることが必要です。事業が「なんだかうまく進んでいない」と思ったときには、組織、体制、文化を見直すべきです。それもちょこっと変更するのではなく、徹底的な深掘りが必要です。
2番目に、体制の見直しはすごく大変です。だからこそ定期的な振り返り、そして入念な準備をしましょう。
(執筆:星 暁雄)
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Editorial Team / 編集部