世界的なエネルギー問題解決の切り札として期待されている「核融合発電」。太陽などの恒星で起きている「核融合反応」を人工的に作り出し、そこからエネルギーを取り出す試みです。実現すれば、安全・安価・無制限にエネルギーを得られる未来が期待されています。
「究極のエネルギー源」とも言われる核融合。このプラントに必要とされるコンポーネントや技術を開発しているのが、京都大学発のスタートアップ「京都フュージョニアリング」です。今年7月には核融合発電試験プラント建設に着手し、2024年末に世界初となる発電実証試験を開始することを発表しました。
今回Coral Capitalでは、京都フュージョニアリングのキーパーソン2人をゲストに迎え、ポッドキャストのインタビューを行いました。核融合の仕組みや実現までの道のり、さらにはビジネスとしての可能性について深堀りしました。
※情報開示:京都フュージョニアリングはCoral Capitalの出資先企業です
なお、インタビューのノーカット版を英語によるポッドキャストでお届けしています。ポッドキャストは、Apple Podcastsか、Google Podcasts、またはSpotifyからお聞きいただけます。
- ゲスト:京都フュージョニアリング Chief Innovator & UK Director & Co-founder Richard Pearson氏、Co-Founder & Chief Strategist 武田秀太郎氏
- 聞き手:Coral Capital創業パートナーCEO James Riney、同パートナー兼編集長 西村賢
The Coral Capital Podcastでは海外の投資家・起業家へのインタビューを今後も予定しています。Apple Podcastsのリンクか、Google Podcasts、またはSpotifyのリンクから、ぜひフォローしてください。
「究極のクリーンエネルギー」核融合を実現する仕組み
James:Coral Capitalのポッドキャストにようこそ。
武田:よろしくお願いします。
Richard:お招きいただきありがとうございます。
James:まずは基本的なところから伺いたいのですが、そもそも核融合とは何でしょうか?
武田:クイズ$ミリオネアなら最終問題になるくらい重要な質問ですね。よく聞かれますが、初めての人にもわかるように簡単なところから説明したいと思います。
核融合は、宇宙にあるすべての恒星を輝かせているエネルギー源です。太陽は50億年前からずっと輝き、燃え続けていますが、それは核融合のエネルギーによるものなのです。
Richard:その背景にある科学について、もう少し専門的な話を補足します。核融合は宇宙の中で最も密度の高いエネルギーの形であると考えられています。核融合反応では、高温高圧下で2つの軽い原子核同士が融合し、より重い原子核が作られます。その過程で、大量のエネルギーが放出されるのです。
この反応を説明する重要な式が、アインシュタインの有名な「E=mc2」(編集注:エネルギーEと質量mは等価であるという原理)です。世界中でTシャツのロゴとかによく使われていますよね。
武田:具体的には、2つの水素原子が融合してヘリウムになる「D-T反応」という種類の核融合に主に取り組んでいます。水素やヘリウムしか扱わないという点で、ウランやプルトニウムを扱う核分裂とは根本的に異なり、最終的に排出されるのも非放射性のヘリウムだけです。つまり名前に「核」が入っていても、高レベル放射性廃棄物は一切排出せず、非常にクリーンで安全かつ持続可能なエネルギーなのです。そのため、核融合は「究極のクリーンエネルギー」と呼ばれることもあります。
Richard:核融合反応そのものは、廃棄物や二酸化炭素を排出しない、低炭素なエネルギー源なのですよね。
一方で、核融合反応ではヘリウムの他に「中性子」が放出されます。この中性子は非常に重要で、なぜかというと核融合で生み出されるエネルギーは全てこの中性子から回収するからです。そのあとに電気や、将来的には水素など、人類にとって有用な形に変換できるのです。
武田:実はもう1つ、核融合エネルギーには非常に優れた特徴があって、それは水素を燃料に使うことです。水素は海水から採取できるので、地球上に豊富に燃料があるということですね。夢のような話に聞こえるかもしれませんが、核融合エネルギーがあれば今後1000万年は電力を世界に供給し続けられると考えられています。ほぼ無尽蔵と同じです。だからこそ核融合は「究極のエネルギー源」と呼ばれていて、私たちはそれを実現しようとしているのです。
核融合はまもなく実現
Richard:核融合がなぜまだ実現できていないかというと、核融合が発生する星と同じ環境を地球上で再現するのが非常に難しいからです。
核融合ではまず、プラズマと呼ばれるものを作らなければなりません。プラズマは固体や液体、気体に次ぐ「物質の第4の状態」です。気体を超高温に加熱するとプラズマになりますが、核融合を起こすには摂氏1億度から2億度くらいの熱が必要です。想像できないくらい高温ですよね。
なんとかしてこのプラズマを作りたいわけですが、それには3つの重要な要素が関わってきます。1つ目はプラズマの温度。2つ目はプラズマの圧縮密度。そして3つ目はプラズマの維持時間です。温度に関しては、先ほど言ったように、D-T核融合の場合は摂氏1億度から2億度の高温が必要です。地球上で核融合を起こすためには、そこからさらに密度や時間の条件を調整しなければなりません。
西村:実際のところ、核融合発電はどこまで実現に近づいているのでしょうか?
武田:米核融合産業協会(FIA)が発表した最新調査によると、大多数の企業は2030年から2035年、つまり10年後ぐらいに核融合が実現すると予想しています。しかし、1号機自体はそれより前に完成するかもしれません。
Richard:私の予想も同じです。歴史的に見ても、1990年代にはすでに発電可能なレベルまであと少しのところまで再現できています。プラズマに加えるエネルギーと、プラズマから放出されるエネルギーがほぼ等しい核融合反応を起こせたのです。次のステップとして、その「ブレークイーブン(投入したエネルギーと発生したエネルギーが等しくなるポイント)」を超える反応が起こせるようになるのは時間の問題でしょう。
James:核融合はまるでエネルギー界の「聖杯」のようですが、なぜ開発に時間がかかっているのでしょうか? 以前からずっと「30年後に実現」と言われていますよね。
Richard:その質問への答えは、有名な核融合科学者のLev Artsimovich博士が1972年に言った「社会が必要としたときに、核融合は実現するだろう」という言葉に集約されていると思います。
核融合反応を実現するというのは、以前から科学者たちにとって非常に難しい課題でした。温度や密度、時間に関する条件を十分に満たさなければエネルギーを生み出す核融合反応は実現できません。また、科学分野としては1950年代から研究されていますが、実用化の面ではごく最近まで資金不足が壁になっていました。
しかし今、明らかな変化が起こっています。中でも大きいのが、人々が「究極のエネルギー源の実現」を望むようになってきたことです。世界中で力を合わせ、核融合に全力で取り組もうという流れに変わってきています。まったく新しいイノベーションモデルや開発アプローチが登場し、民間だけではなく公的プロジェクトでも積極的に取り組むようになりました。まさに社会が必要とするようになったからこそ、動きはじめたのです。
武田:実際、これまでの開発の遅れは資金不足が原因だと多くの科学者や技術者が実感しています。たとえば300億ドルも資金があれば、およそ10年以内に核融合発電所を建設できると予想されているんです。
James:でもそれなら、ITER(国際熱核融合実験炉)はどうなりますか? ITERの予算は200億ドルですよね。あと100億ドルあれば実現するということですか?
武田:鋭いご指摘ですね。まず前提として、ITERは国際協力プロジェクトです。1970年代に始まりましたが、当時は国際的に協力して核融合プロジェクトを進めることが非常に理にかなっていました。核工学の活用という内容の性質上、すべての国が平和的に団結することに意義があったからです。そして実際、このアプローチにより多くの成果が得られました。しかし同時に、国際協力であるということが計画を遅らせる原因にもなっていたのです。
そのため、核融合研究の場は現在、公共部門から民間部門へと急速にシフトしています。そのほうが核融合という巨大で複雑なプロジェクトにおいて、より機敏かつ迅速に開発を進められるからです。
James:今後は民間企業で核融合炉が実現される可能性が高いということですか? 国や公的研究機関などのプロジェクトからではなく。
武田:その答えはイエスでもありノーでもありますね。なぜなら民間企業による開発や成果は、そのすべてが公的機関における何十年もの開発の歴史の上に成り立っているからです。一番良い例えが、NASAとSpaceXの関係かもしれません。SpaceXは確かにすごい速さで次々と開発に成功していますが、いずれもNASAによる何十年もの研究の上に成り立ってるのです
失敗が許されない国家プロジェクトと、リスクを先取りできるスタートアップ
Richard:核融合が民間か、公的プロジェクトのどちらで実現するのかという質問に関しては、主にリスクに対するアプローチの観点から見る必要があると考えています。
まずはITERですが、アメリカや中国、日本、ロシア、EU、イギリスが参加している点で公的プログラムの中でもかなり特殊と言えるでしょう。どういう意味かと言うと、政治的な側面も持っているということです。もちろん良い意味での政治的な連携でもあるのですが、その反面、失敗するリスクを低く抑えないといけない事情があります。また、国境を越え、国際的に協力して開発しなければならないというのは、必然的に多くの複雑さを生み出します。
そのため、ITERの計画が遅れているのも事実です。2027年に最初のプラズマを実現するのが目標でしたが、実際にD-T反応を伴う核融合プラズマが作れるのは、2030年代後半だと予想されています。発電所の実現に関しても、今の方針では2050年代か、現実的に考えれば2060年代になるでしょう。
ここで重要になってくるのが、イノベーションが起こる過程です。従来、イノベーションは科学から技術、そして技術から製品やアプリケーションへと発展していくものとされてきました。例えば、月への着陸は商業目的ではなく、技術の応用を目的としたミッションでした。それを市場に進出させ、商業的な宇宙事業を確立しようとしているのが現在のSpaceXです。ITERの場合も、やはり今は科学や技術の研究に注力していて、商用化は基本的に後回しになっています。
しかし現在、イノベーションに対する取り組み方が変わってきています。ITERやその他の公的プログラムによって過去70年間も蓄積されてきた研究結果や知見がある今、私たちはすでに核融合の科学をある程度理解できていると言っていいでしょう。実際、あとほんの少しでエネルギーを生み出すプラズマが作れるところまで来ているのです。
そこで民間の企業は、「それなら先に技術開発を進めてしまって、良い製品やアプリケーションを作るために必要な技術に注力しよう」と考え始めたのです。早い段階で商用化を視野に入れるというこの変化は、まさにパラダイムシフトと言えるでしょう。
民間企業は、今ある知識で前に進むマインドセットで動いています。要するにリスクを先取りしているということですね。そして結果的に、このアプローチで実際に核融合開発を進められることがわかっています。それらの民間プロジェクトの多くは商用化が前提です。つまり、発電所の規模までスケールアップすることを目指して核融合プラズマの生成に取り組んでいるのです。ここが国が主導するプロジェクトとの重要な違いで、国際的プロジェクトであるITERなどでは失敗が許されないため、コストがかかるし開発も遅くなります。一方でスタートアップ企業は「フェイル・ファスト(早く失敗することを恐れない)」なメンタリティーを持っています。
ソフトウェアのアジャイル開発にちなんで「アジャイル哲学」とも呼びますが、たとえばソフトウェアの開発では簡単に失敗が起こり得ます。コードを間違えれば、それだけでダメになってしまいますからね。でもそれならコードを書き直してまた進めばいい。失敗を恐れずブレークイーブンまでなるべく早く開発を進め、有望なプロダクトが作れたらすぐに商用化してしまうということです。もちろん、そこまでたどり着くにはまだ多くの課題がありますが、国や公的研究機関との違いはここが1番大きいのです。
まるで核融合ゴールドラッシュの「リーバイス」?
James:最近は民間の核融合市場に何十億ドルも投資されるようになり、世界中にいくつもの核融合スタートアップが生まれています。確かに状況は変わってきていますが、現在の核融合スタートアップの業界動向はどうなっているのでしょうか?
武田:現在、自分たちで核融合を実現しようとしているスタートアップは世界に30社以上あります。それらの企業や核融合エコシステムを支えるサポート的な役割の企業はさらに多く、その数は数十社、もしかしたら数百社に上るかもしれません。
京都フュージョニアリングはすべての核融合スタートアップをサポートする企業としてビジネスを展開しています。他の核融合スタートアップがより革新的な技術の研究や開発に集中できるように、技術の提供からサプライチェーンやエコシステムの構築まで様々な形で貢献しています。
James:具体的にはどのようなサポートを行っているのでしょうか?
Richard:それを説明するには、冒頭でお話した「恒星」の例えに戻る必要があります。恒星で起きている核融合反応を地球上で再現するには、まずは星そのものを作らなければなりません。次に星を入れるための何らかの「容器」も必要です。現在、核融合スタートアップのほとんどは主に星を作るほうに注力しています。核融合プラズマを発生させ、投入したエネルギーよりも放出されるエネルギーのほうが多い核融合反応を起こし、発電を実現するのが主な目標です。
「星の容器」にも、もちろんある程度は重点を置いています。どうやって星を作ろうかと考えたとき、必然的にその星を封じ込めて核融合反応を起こすための容器についても考えなくてはならず、その容器を構成する機器やシステム、技術も必要になるからです。それらなくして発電炉は成り立ちません。そして京都フュージョニアリングは、まさにこの「星の容器」に関わる分野に注力しています。要するに、核融合スタートアップや公的プログラムによる核融合開発を補完する存在なのです。
「容器」に関わる機器やシステムは非常に複雑ですが、私たちは高性能かつ商業的に実用化できるソリューションの開発を使命として取り組んでいます。そして核融合による燃料サイクルや発電の実現を目指すという意味で、他の核融合スタートアップたちと同じ目標を共有しています。この業界全体の連携の先にこそ、核融合発電所による電気の生産や水素の製造、そしていずれは海水の淡水化などの様々な実用化が待っていると考えています。
James:なるほど。投資家からすると、京都フュージョニアリングは比較的早い段階から収益を上げられる企業になりつつある、という見方ができます。核融合産業をゴールドラッシュに例えるなら、「鉱夫たちにモノを売る」ビジネスだからです。核融合自体は、将来性が高い一方で、収益性という点では明らかにかなり先の話です。しかし京都フュージョニアリングは、全ての核融合企業を顧客とすることで、比較的早期に収益を上げることができる。
武田:その通りです。実際、私たちはすでに収益を上げています。もしかしたら、第1世代の商用炉ができる前から、収益だけでなく利益も継続的に上げられるという点では、現時点で世界で唯一の核融合スタートアップかもしれません。核融合業界の中では、そのようなユニークなポジションにあります。
Richard:ゴールドラッシュのリーバイスのモデルは、実際によく例えとして使っています。ゴールドラッシュの時代にリーバイスは、金を探しに行く鉱夫たちにピックやシャベルなどの道具や、ジーンズなどの衣類を売っていました。そういう意味で、よく似ていると思います。
もっと的確に例えるなら、ロールスロイスと飛行機の関係です。飛行機は、翼を設計して飛行機そのものを製造するAirbusやボーイングなどの企業だけで作れるわけではありませんよね。エンジン部分を製造するロールスロイスのような企業も必要なのです。
ゴールドラッシュの例えだけだと、実際には多くの人にとって不幸な結末に終わるので正確な例えにはなりません。一攫千金を目指して金を掘りに行った人たちが失望に終わる中、リーバイスだけが儲かったというオチですから。私たちはもちろん、そんなことを望んでいません。
京都フュージョニアリングは全ての核融合企業を支援するために存在し、同じ目標や使命を共有しています。ビジネスとして利益や儲けも発生するかもしれませんが、それは「クリーンな核融合を実現する」という当社のビジョンの中では、ほとんど副次的な目標です。この2つの側面は、両立できるものだと思います。
日本が陰ながら支えている核融合業界
James:核融合の業界は、京都フュージョニアリングをはじめとする日本の企業が陰で大貢献している業界でもありますよね。
例えばiPhoneを見ると、日本はiPhoneそのものを作っていませんが、iPhoneを作るために必要なコアテクノロジーの多くは実は日本が作っています。核融合も同様に、エンドユーザーは知らなくても、世界中で使われている重要な技術の多くが日本の企業によって作られています。このようなリーディングカンパニーが日本から生まれる理由はどこにあるのでしょうか?
武田:1番大きいのはITERの存在です。ITERで使われる最も重要かつ複雑な部品の多くは日本が作っています。日本のエンジニアリング企業にしか作れない、高い精密度が必要な部品だからです。
James:三菱重工や、東芝のことですか?
武田:そうです。非常に精密でデリケートな部品ですので、世界中で作れるプレーヤーは限られています。それは民間のプロジェクトでも同様で、日本の企業だからこそ最高品質を提供できる機器や部品がたくさんあるのです。
しかしここで重要になるのが、サプライチェーンの問題です。誰かがそれらの部品や機器を流通させるためのサプライチェーンを整える必要があります。日本のすべてのエンジニアリング企業が、民間の核融合企業と直接交渉し、売り込むことができるわけではありませんから。
そこで京都フュージョニアリングでは、サプライチェーンの構築や最適化にも取り組んでいます。具体的には、日本のエンジニアリング企業の技術力と、それに対する需要のマッチングを仲介しています。これは日本のためだけではなく、世界全体の核融合エコシステムの発展や構築のために必要だと考えています。
核融合スタートアップが日本に拠点を構えるメリット
James:多くの技術が日本からもたらされているのには、歴史的な背景もありますよね。例えば、日本はエネルギーへの依存度が高いため、歴史的に核工学が重視されてきました。そのため、あまり知られていないかもしれませんが、実は日本には世界有数の核技術者がたくさんいます。京都フュージョニアリングは日本に拠点を構えていますが、その利点を教えてください。
武田:まずは学術研究の強さですね。日本やフランスは過去半世紀にわたって核科学を研究してきたので、世界トップレベルです。つまり、日本では核融合だけでなく、核科学全般について長年蓄積されてきた学術的な資産を直接利用することができるのです。これは核融合のような極めて特殊で高度な科学を必要とする分野においては、非常に大きな強みです。
2つ目の理由は、先ほどおっしゃったように、優秀な技術者が数多くいること。そして3つ目は、人材や技術だけでなく、国としての製造能力が高いことです。日本にはたくさんの工場があり、必要な部品や材料を十分に供給できるサプライチェーンもあります。
核融合炉を作るために必要不可欠なこの3つ要素が「三位一体」となってすべて揃うのは、実は日本にしかない特別なことなのです。これが、京都フュージョニアリングや日本ならではのユニークなセールスポイントの1つです。
Richard:私からは国際的な視点からお話ししたいと思います。国際的観点からイノベーションというものを考えると、製造業を国の主戦力とした国は、歴史的に見れば2つあります。日本とドイツです。今では中国も含まれるかもしれませんが、少なくとも2000年あたりまでは、世界で日本とドイツだけが製造業の輸出で貿易黒字を出していました。
ですから、製造業や先端技術に強い国というと、真っ先に思い浮かぶのがドイツの車や機械、それに日本の電子機器や先端技術産業です。これに、日本の核工学への関心や専門的人材の豊富さを合わせると、非常にユニークな強みになります。
さらに、現在の核融合業界で何が起きているかというと、イギリスやアメリカで核融合開発が非常に活発になってきています。特に、どちらも国や公的研究機関と民間企業の間の連携が強くなってきているのです。イギリスの場合は、英国原子力公社が運営する公的プログラムがあり、民間企業のサプライチェーンを取り入れて開発を進めています。京都フュージョニアリングもそのうちの1社として参加しています。アメリカでは逆に、国の研究機関や大学が民間企業をサポートする側になって開発が進められています。開発体制としてはまるで真逆ですが、やっていることは実質的に同じです。
そして今、両国は日本に注目しているのです。高い技術力を備えた「ものづくり大国」として、日本の供給力は期待されています。Jamesさんが言っていたiPhoneの例と同じですね。
武田:日本が核融合研究に強い理由として、もう1つ面白い背景があるのですが、戦後の日本では核融合以外の核関係の研究が禁止されていたんですね。だから、優秀な物理学者や核科学者はみんな核融合の研究を始めました。ノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士もその1人です。おかげで戦後に日本は核融合研究で大きく先行できて、それが現在に至るまで続いた結果としてトップレベルの核融合科学を誇る国になれたのです。
Richard:現在の核融合業界は「巨人の肩の上に立っている」とも言えます。これはイギリスの言い回しで、日本の同僚に説明するときもよく使う表現です。どういう意味かというと、現在の核融合開発は、そのほとんどが大学や研究所のプロジェクトから派生したものや、核融合に全キャリアを捧げてきた人たちが率いているものなのです。
というのも、社会学的に見れば、核融合研究の最盛期は1970年代から1980年代頃であり、その時代に研究していた科学者たちのほとんどが現在60歳から80歳くらいになっています。キャリアの終わりが見え始めていて、なんとしてでも核融合の実現に立ち会いたいと強く願っているのです。
もう一方には、私たちのような若い世代の人間がいます。私は今31歳で、武田さんは何歳か年上です。新しいエネルギー源として社会から渇望される「核融合」という魅力的な分野に、若い世代が集まってきているのです。
そんな中、ESGに本気で関心のある投資家たちが核融合に注目するようになってきています。投資対象として一般的に人気のあるジャンルのテクノロジーよりも、もっと長期的に重要なものに投資するべきだ、新しいエネルギー源が必要だ、と考える投資家が増えてきました。
ここでもまた「三位一体」が揃うという現象が起こっているわけですね。異なる強みを持つ3つの世代が、同じ未来を目指しているのです。まずは情熱と熱意を持った若い世代。次に、投資家の世代。もちろん、若い投資家もいますが、主な年齢層は中高年くらいでしょうか。未来にわたって本当に持続可能なものにこそ投資したいと考えていて、変革や新しい産業の成長を望んでいる人たちです。幸いなことに、最近はこのような新しいタイプの投資家が増えてきているようです。最後に、全キャリアを核融合研究に捧げてきた科学者やエンジニアたちです。つまり、核融合が産業として確立しつつあり、変化が起こりはじめていることを本当に喜んでいて、これからが楽しみで仕方がないという人たちです。
James:なるほど。変化しつつある業界の中、京都フュージョニアリングは世界中の核融合企業を顧客として機器や部品を提供しているわけですね。
武田:そうです。ただし、単に機器や部品の提供ではなく、「ソリューション」を提供しているということを強調させてください。つまり、「核融合炉からエネルギーを取り出す」という重要な課題に対して、製品だけではなく、設計やコンサルティングまでを含めた総合的なソリューションを提供しているのです。
世界初の核融合発電試験プラント建設
James:今年7月には、核融合発電システムによる発電を試験する「UNITY」というプラントの建設を発表されましたよね。
武田:UNITYは京都フュージョニアリングが取り組んできた中で最も大きなプロジェクトの1つです。
これまでに核融合という分野では、各グループや大学、研究所などが核融合発電炉の特定の部分やテクノロジーに集中的に取り組んできました。しかし、核融合反応からエネルギーを取り出し、実際に発電するという一連のサイクルを備えたプラント全体の実験や実証はまだ誰も行っていません。だからこそ、核融合産業の次のステップとして、研究室や個人レベルを超えた、統合的な発電サイクルの研究開発を誰かがやらなくてはいけないと考えたのです。
そこで始動したのが、「UNITY」というプラントの建設です。このプラントでは核融合発電所に必要なすべての機器や技術を1カ所に集約します。そして核融合炉からエネルギーを取り出し、発電につなげ、さらにその先までの統合的な運用を実証することを目指しています。これが京都フュージョニアリングが今最も注力している大型プロジェクトです。
James:なるほど。ところで現在の業界動向として、核融合エネルギーの実現を後押しするような国の政策や政治面からの追い風はあるのでしょうか。
武田:日本では、国として初めて核融合戦略を策定することが内閣府から発表されています。この国家戦略には官民パートナーシップの活用も含まれていて、単に公的なものではなく、民間のイノベーションも取り入れようという姿勢があります。
ちなみに、当社のCTOである小西(哲之教授)も、内閣府の核融合戦略会議のメンバーとして参画しています。日本初の核融合国家戦略に、京都フュージョニアリングからの意見も加えさせていただいています。
Richard:日本も世界の核融合業界の波にかなり追いついてきていると思います。アメリカやイギリスでも、特にここ1年半の進展がものすごく、政府によって戦略的に核融合開発が推進されています。
イギリスでは10月上旬に、英国原子力公社が「STEP」という核融合発電所のプロトタイプの建設について発表しています。2040年までに完成予定で、その後は速やかに運用を開始すると宣言しています。建設には民間企業も協力しますが、国が主導するプログラムでこれほどスピード感があるのは、これまでになかったことです。
アメリカでも、2022年3月に「商業核融合エネルギーの実現を加速するための10年戦略」という革新的な計画を政府が発表しています。また、同年の9月下旬には、米国エネルギー省による初めての民間企業向け助成金プログラムが発表されています。核融合開発のマイルストーンの達成ごとに助成を受けられるというものです。
このように規制面や社会面などで様々な追い風が吹きはじめ、エコシステムの構築が進むなど、本当に状況は変わってきているのです。
海外進出を目指す日本のディープテック起業家に伝えたいこと
James:素晴らしいですね。京都フュージョニアリングの取り組みは非常に野心的である一方で、SaaSのように分かりやすい指標もなく、これまでに多くの壁があったと思います。ディープテック系の起業家、特に海外進出を目指す、日本のディープテック起業家に向けて何かアドバイスはありますか。
武田:投資家の視点を考えるのが重要だと思います。ディープテック投資家というのは、投資を通じてより良い未来を作りたいと心の底から願っている人たちです。核融合が実現すればまさにそのような、人類とエネルギーの関係を根底から変えるほどのパラダイムシフトが起こるでしょう。
しかし核融合を実現するには、研究開発のための投資家からの資金提供が必要です。それは投資家からすれば、核融合への投資という一手こそが、彼や彼女らの目的である「より良い未来への変革の加速」を達成する鍵になるという意味でもあります。これが核融合投資の最大の魅力ではないでしょうか。
実際に京都フュージョニアリングでも、核融合の最先端コンポーネントの製造に留まらず、核融合エネルギーの世界的な産業としての確立や、それによる「カーボンニュートラルなNetZero社会」を最終的に目指しています。
Richard:少し投資の哲学のような話になりますが、ディープテック投資家というのは投資に対する考え方がそもそも違うと思うんです。長期的な挑戦を好みますし、それらが簡単に解決できる課題ではないことも理解しています。
さらにいうと、核融合への投資には忍耐強さや、自ら変革に関わる意志や姿勢が必要です。私たちのような核融合企業がしっかり計画を進めるように、強く働きかけてくれる投資家のほうがむしろ望ましいのです。十分な資金があれば、技術的・科学的には核融合は実現可能なはずですから。
James:確かに京都フュージョニアリングは、機器や部品に着目したビジネスモデルですでに収益を上げている点からして、非常に特殊なタイプの核融合企業だと言えますね。最後にリスナーに伝えたいメッセージがあればお願いします。
武田:私たち京都フュージョニアリングは、核融合エネルギーがいつか必ず実現し、史上最大の「エネルギーのパラダイムシフト」を起こすと心から信じています。
キティホークでライト兄弟が初めて有人飛行に成功したときのことを考えてみてください。今でこそ飛行機は当たり前の存在ですが、彼らが成功するまでは「人が空を飛ぶなんてありえない」と誰も本気にしていませんでした。しかし、1900年代にキティホークで初めての飛行が成功し、そのわずか68年後には人類が月に降り立っているのです。このキティホークから始まった感動が、核融合でも起こると私たちは心から信じています。そして最初の核融合エネルギー発電は、あとわずかで手が届くところまで来ているのです。だからどうか皆様も、私たちと一緒に信じてください。
Richard:核融合業界は5年前と比べて状況が大きく変わってきています。そして次の5年後は、飛行機で例えるなら、地面から車輪が離れて、空へ高く飛んでいける「飛行機」が作られているでしょう。
今は、そのために実際に使う「滑走路」を準備している段階です。滑走路は長く、作るのは大変ですが、道は確実に一歩一歩開けてきています。車輪が地面から離れ、その先へ飛べるようになるのも時間の問題です。
さらに、最近の核融合業界には新しい人たちが参入してきていて、非常に活気あるコミュニティが生まれてきています。それと同時に、核融合の世界に明らかな変化を感じさせる空気が流れています。
近い将来、核融合が世界を動かすエネルギーになると私たちは本気で信じています。しかもそれは永遠に続くのです。そして、あなたが思っているほど先の未来でもないはずです。
【告知】
京都フュージョニアリングも参加する、日本最大のスタートアップキャリアフェア「Startup Aquarium」が2月18日(土)に開催されます。イベントでは共同創業者兼代表取締役の長尾昂さんにも登壇いただく予定です。スタートアップ転職に興味がある方はもちろん、中長期的なキャリアを考えるきっかけになるイベントですので、ぜひご参加ください。